ぼくがぼくになった日

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結局飽きっぽいぼくは、ジュニアタレントの事務所も2年も経たず辞めてしまった。



将来の夢は、と聞かれれば、野球選手、漫画家、占い師……と適当なことばかりを言いながら、あっという間に8年の時が過ぎた。














進路進路と中学校の先生はうるさい。

ぼくの進路なんて決まっている。実家の弁当屋を継ぐことだ。


今日は一学期の終業式。もらった通知表の成績を見る限り、ぼくの行ける公立高校なんてひとつしかない。

そこに通って、卒業して、そのまま実家で働くんだ。誰も文句なんてないだろ。



家も加盟する商店街のいつもの本屋で立ち読みをし、おじちゃんに追い出される頃に、手前にあった少年誌を掴んで会計をすませた。



「なんだよ、今月はおっぱい大きいおねーさんじゃないや」


スクール水着に身を包んだ貧相な身体の女の子がこちらを見て笑っている。


「でも、やっぱり一番かわいいや」



また話してみたい、と思っていたんだ。
あれ以来きっとずっと好きだったなまえちゃん。



お手紙はすべて捨ててしまった。もうお絵かき帳も持っていない。中学生に上がり、住所さえわかっていればどうにでも会うことが出来たろうに、ぼくは浅はかだった。




ガキ大将が占拠していた児童公園の赤いすべり台の頂上に座り込んで下を見廻す。


あの撮影の日には、もっと高く感じられたはずだったのに、ぼくは少し大きくなったんだろうか。
では中身は。そう聞かれたら自信はない。


やりたいことも夢もない。


ただひとつだけ言うとしたら、なまえちゃんに会いたい。だからもう一度だけ、芸能の道に進んでみたい。



家に帰っても、翌朝学校に行っても、誰も真面目に話を聞いてくれなかった。
会いたい人がいるだなんてことはさすがに言わなかったけれど、最初にわかってくれたのは母ちゃんだった。


「あんたが今度こそ本気なら、三者面談で先生に一緒にお願いしてみようかね」


いつもぼくの味方をしてくれる母ちゃんに、いつかなまえちゃんを紹介できたらいいなって思う。カノジョとかってことじゃなくてもさ。友達として……さ!






ぼくは周りの反対を押し切って早乙女学園のアイドルコースを受験。なんと無事に進学することとなった。



全寮制の学園に向かうため、自分の部屋を片付けていたら、机の奥からオドロキマンの巾着袋が出てきた。


「なんだっけこれ」


中からはいちごみるくの飴の包みとリボンで包装された小さな袋が出てきた。


「……思い出した」


自分はキモイなぁ、そう思いつつも、それを学園への荷物の中に入れて宅急便で送った。
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