☆薔薇遊戯☆【三兄妹物語り】

□3☆薔薇遊戯☆
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☆薔薇遊戯☆


3


柳娟が隠れ場所に選んだのは、巻き物が並ぶ棚が三つ置かれた部屋。
書庫のように見えるが、全て、帳簿や商品の入庫や出庫や、顧客の情報が記されたものだった。

柳娟は壁際に置かれた二つの棚ではなく、
真ん中の棚の一段目に足をかけ、一段よじ登り、もう一段よじ登った。

さらによじ登り、さらにもう一段よじ登って、一番上の段まで登ることもできたが、
それでは、小さな妹の目線では、見つけることが出来ないだろう。


柳娟は、登った段に並んだ巻き物を端にやると、作ったその隙間に体を隠した。


「これでよしっと。




─────って、なんで兄キが、一緒に隠れようとするんだよ!?」


棚のふちを手すりのようにして、危なっかし気に、
柳娟のいる段まで、棚をよじ登ってきた、年子の兄。


「妹の康琳とは、一緒に隠れてただろ!?」

「兄キは妹じゃないだろっ」


柳娟と一緒に隠れようとする呂候。


「ちょっと詰めてよ」


「落ちちゃうよ!反対側にっ」


柳娟はちょっと詰めた。


「柳娟、せまい?」


「せまいよっ」


一緒に隠れる柳娟と呂候。


「…あ……!?柳娟っ、ちょっと、…やめてよっ…くすぐったいよ……っ!?」

「自分の髪の毛だろ。くすぐったいなら、あっちでひとりで隠れろよ」


「ひとりで隠れるのこわいし、さみしいだろ!?」

「かくれんぼにならないだろっ」





「あーーー♡兄様と呂候兄様、みぃーーーっけ♡」



せまい棚の上で、頭も尻も隠れていない、二人の兄を見つけた康琳。


呂候は、棚のふちを手すりのようにして、
危なっかし気に棚を降りると、言った。


「康琳は見つけるのが上手いなぁ」

「兄様たちが隠れるのがヘタなだけですわ♡」

「ほら言われた」


柳娟は言って、棚の上から飛び降りようとし、
着ていた服の裾が棚の鉤(かぎ)に引っ掛かり、
軽い体が、一瞬宙吊りになった。



「─────うわっ!?」



バタつかせた手が、端に寄せた巻き物の山に当たり、
先に、崩れ落ちていったのは巻き物の山。

落ちた拍子に、幾つかの巻き物は紐がほどけて広がり、
紐のほどけなかった巻き物は、四方八方に転がっていった。




─────ドシンッ



「いってぇ……」



その後に、落ちていったのは柳娟。



「兄様っ!?大丈夫?」

「うん、大丈夫。イタタ……」

「柳娟、大丈夫っ!?うわーーーーーん!!」

「だから、なんで兄キが泣くんだよっ!?」



悪戯しかしないのが子供なら、
その犯行現場に出くわしてしまうのが、親。

泣いてる長男と、服の裾が破けている次男と、
泣いている長男をあやすようにしている末娘。

その周りに、重要書類である巻き物が、
ほどけたり転がったりして、散らばっている。


「もうっ!子供達っ、外で遊びなさいなっ!!
柳娟は、服を着替えてからっ!!」


かくして、親が本物の鬼となったところで、かくれんぼは強制終了。
遊び場は、内から外へ。



「はーい♡お飯事する人ー?あたし、お母さん役っ」

「いいよ。僕、お父さん役ね」

「えーと、えーと、僕は……養子縁組届証人代行人役!」

「なんでだよっ」

「呂候兄様が、赤ちゃん役をやってくれれば、全て解決ですわ♡」



裏庭に、三兄妹の笑い声や泣き声が、
「もうっ!!子供達っ、早く家に入りなさいなっ!!
ご飯だって言ってるでしょお!?」と、声が響くまで、
永遠に暮れることがなく、二度と戻ることのない、
夏の陽の朱色の光の輝きの中に、いつまでも響いていた。




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