☆薔薇遊戯☆【三兄妹物語り】
□3☆薔薇遊戯☆
1ページ/1ページ
☆薔薇遊戯☆
3
柳娟が隠れ場所に選んだのは、巻き物が並ぶ棚が三つ置かれた部屋。
書庫のように見えるが、全て、帳簿や商品の入庫や出庫や、顧客の情報が記されたものだった。
柳娟は壁際に置かれた二つの棚ではなく、
真ん中の棚の一段目に足をかけ、一段よじ登り、もう一段よじ登った。
さらによじ登り、さらにもう一段よじ登って、一番上の段まで登ることもできたが、
それでは、小さな妹の目線では、見つけることが出来ないだろう。
柳娟は、登った段に並んだ巻き物を端にやると、作ったその隙間に体を隠した。
「これでよしっと。
─────って、なんで兄キが、一緒に隠れようとするんだよ!?」
棚のふちを手すりのようにして、危なっかし気に、
柳娟のいる段まで、棚をよじ登ってきた、年子の兄。
「妹の康琳とは、一緒に隠れてただろ!?」
「兄キは妹じゃないだろっ」
柳娟と一緒に隠れようとする呂候。
「ちょっと詰めてよ」
「落ちちゃうよ!反対側にっ」
柳娟はちょっと詰めた。
「柳娟、せまい?」
「せまいよっ」
一緒に隠れる柳娟と呂候。
「…あ……!?柳娟っ、ちょっと、…やめてよっ…くすぐったいよ……っ!?」
「自分の髪の毛だろ。くすぐったいなら、あっちでひとりで隠れろよ」
「ひとりで隠れるのこわいし、さみしいだろ!?」
「かくれんぼにならないだろっ」
「あーーー♡兄様と呂候兄様、みぃーーーっけ♡」
せまい棚の上で、頭も尻も隠れていない、二人の兄を見つけた康琳。
呂候は、棚のふちを手すりのようにして、
危なっかし気に棚を降りると、言った。
「康琳は見つけるのが上手いなぁ」
「兄様たちが隠れるのがヘタなだけですわ♡」
「ほら言われた」
柳娟は言って、棚の上から飛び降りようとし、
着ていた服の裾が棚の鉤(かぎ)に引っ掛かり、
軽い体が、一瞬宙吊りになった。
「─────うわっ!?」
バタつかせた手が、端に寄せた巻き物の山に当たり、
先に、崩れ落ちていったのは巻き物の山。
落ちた拍子に、幾つかの巻き物は紐がほどけて広がり、
紐のほどけなかった巻き物は、四方八方に転がっていった。
─────ドシンッ
「いってぇ……」
その後に、落ちていったのは柳娟。
「兄様っ!?大丈夫?」
「うん、大丈夫。イタタ……」
「柳娟、大丈夫っ!?うわーーーーーん!!」
「だから、なんで兄キが泣くんだよっ!?」
悪戯しかしないのが子供なら、
その犯行現場に出くわしてしまうのが、親。
泣いてる長男と、服の裾が破けている次男と、
泣いている長男をあやすようにしている末娘。
その周りに、重要書類である巻き物が、
ほどけたり転がったりして、散らばっている。
「もうっ!子供達っ、外で遊びなさいなっ!!
柳娟は、服を着替えてからっ!!」
かくして、親が本物の鬼となったところで、かくれんぼは強制終了。
遊び場は、内から外へ。
「はーい♡お飯事する人ー?あたし、お母さん役っ」
「いいよ。僕、お父さん役ね」
「えーと、えーと、僕は……養子縁組届証人代行人役!」
「なんでだよっ」
「呂候兄様が、赤ちゃん役をやってくれれば、全て解決ですわ♡」
裏庭に、三兄妹の笑い声や泣き声が、
「もうっ!!子供達っ、早く家に入りなさいなっ!!
ご飯だって言ってるでしょお!?」と、声が響くまで、
永遠に暮れることがなく、二度と戻ることのない、
夏の陽の朱色の光の輝きの中に、いつまでも響いていた。
続