☆人魚姫遊戯☆

□最終回☆人魚姫遊戯☆
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☆人魚姫遊戯☆最終回


9


「………で?」

と、訊き返した王子様。

「『で』って♡
ですから、金銀パールの宝石より、価値あるものを捧げに参りましたわ♡
二度も言わせないでくださいましなっ♡」

慈愛溢れる瞳で、王子様のことを見る。

「王子様が、あまりにも、淋し気に見えたものですから」

「淋し気に?」

「ええ。あたくしと、同じ瞳の色だと」

「そなたと?」

不思議そうな顔で、人魚姫のことを見る。

「そなたにも、おるのか?私にはいるよ。
ずっと昔から、たった一人、あこがれ続けた、宿命の恋人<女性>が」

「ええ。あたくしにも、おりますわ。
1000年も昔から、昼は月に。夜は星に。願い続けた、宿命の恋人<男性>が」

左目の下には小さい泣きボクロのある、
タレ目がちな大きな瞳で、王子様のことを見る。

「月の形も、星の巡りも、
全ては宿命の恋人に、出逢い、捧げ、想い想われ、愛し愛される為の、
見果てぬ海原をゆく航海の羅針」

扉の前に、立ったままでいた人魚姫は、


「母なる海から生まれたままの姿を」


扉の左右に灯された蝋燭の火を消して、部屋を暗くしようとした。


「全てを、知って頂きたく存じます」


全ては、その姿を知られないようにする為に。


「本当の、すが─────」


突然、観音開きのその扉が、ばんっ、と、左右に開き、


「─────だっっ!!?」


開いた扉に、したたかに、鼻を打った人魚姫。


涙目で鼻を押さえる人魚姫の目と鼻の先で、
見たことのない衣装<ドレス>の女が、王子様に抱きつく。


「ダーリンッッ♡」

「美朱、もうそんな時間か。すまない。
今、大事な話をしている。
資産価値の下がらない財について。政治的なアレだ」

「あたしもう、我慢できなーい♡」

「ウイやつめ♡」


目の前で、ディープキスをする、美朱と王子様。


「ちょ、ちょ、ちょっとぉ、あんたねぇ!!なんてことするのよっ!?
鼻、打ったじゃないッ!あんた、誰よっ!?」

「あんたこそ誰よ?」

「あんたが誰よっ!?」

「あんたが誰よ!」

「王子様っ!一体、誰なんですっ!?
このっ、ちっぽけなっ、コ憎たらしいっ、小娘はっ!!?」

小娘を指さし問うた人魚姫。


「ん?異世界からきた、私のフィアンセだ」


(フィアンセですって〜〜〜〜〜ッ!??)

「………………〜〜〜〜〜〜!??」



「私の、孤独な魂を救ってくれた、命の恩人だ」



(命の恩人ですって〜〜〜〜〜ッ!!?)

「………………〜〜〜〜〜〜!!?」


心の声も出ない人魚姫。



「王子様っ!そんなっ、小娘のっ、どこがいーいって言うんですっ!?
このオンナっ、サヨリみたいに、お腹ン中、真っ黒けっけですわよっ!!?」

「あら?なんか文句ある?どこの誰だか知らないけど」

「…モンクってねェ………」

喧嘩腰に、ないドレスの左の袖をめくった人魚姫。


「バッカみたい。ファーストキスが人工呼吸のくせに」


海に落ちた雷に打たれたような、
全身を、走り貫くような、その衝撃に、声も出ない。


(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!)

「………………〜〜〜〜〜〜!!!」


ピッ、と、見えないところで舌を出した、美朱。
人魚姫のことを、信じられない、という目で見た王子様。


「ま……まさか!そんな運命の女がこの世にいるはずがっ」


両手で顔を覆い、


「ひどいわーーーーーーっ!!!バラすなんてーーーーーーっ!!」


と、王子様の部屋を飛び出し、
甲冑やら彫刻やら剥製やらの調度品を凪倒しながら、
広いお城の角を曲がったり戻ったりまた戻ったり曲がったり、
廊下を行ったり来たり、階段を上がったり下がったりしながら、
海の見える自分の部屋へと、戻ってきた人魚姫。

は、天蓋付きの寝台に突っ伏し、

(黒美朱のばかばかばか〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!
王子様のばかばかばか〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!

えーんえんえん!



黒美朱っ!!絶っ対っ、ゆるさないっ!!)

と、泣き止むと、

オーロラ色のドレスを、
コルセットを緩めボーンを外して脱ぎ捨て、
桜貝色の、袖と胸元のひらひらした衣装を着直し、
髪から七色の宝石があしらわれたピンを挿し抜くと、ない胸元にしまい、
流行りの靴を脱ぎ捨てると、

広いお城の階段を上がったり下がったり、廊下を行ったり来たり、
角を曲がったり戻ったりまた戻ったり曲がったりしながら、
また、王子様の部屋へと向かう。



『いいかい?もし、王子様が、他の女を愛し愛され結婚したら、
人魚姫、お前は、泡になって消えてしまうよ─────』



自分の宿命に、脳内再生された、海の魔女の声を、思い出す。


王子様の部屋の前に戻ってきた人魚姫。
扉を叩かず、忍び足で、部屋に忍び込むと、
その桜貝色の、ひらひらとした左の袖の下から、短剣を取り出し、
あどけなさを残す顔で眠る王子様の左胸の上で、振り上げる。

が、

『7つの海の果ての国から参られた
(美人でおしとやかで慈愛あふれる)姫。
それは、大変な目に遭われた。無事でなにより。
(ありがとう。私の為に生きていてくれて)
この紅南の国の王子として、
(ではなく、一人の男として)そなたを歓迎する』


と、涼しい瞳で、優しく微笑んだ、
脳内補正された、王子様の優しさが、思い出され、


隣で、何食わぬ顔で眠る黒美朱の左胸の方を、
焼き鳥よろしく、串刺しにしようとするが─────、



カラン───………ッ、と、素足の足元に、短剣を落とした人魚姫。



王子様の部屋を、再び、飛び出す。


と、自分の部屋には、三度は、戻らずに、



(王子様を殺すぐらいなら、わたしが、泡になって消えましょう─────)



と、言う想いも、ちらり、と、胸をかすめたが、泡になっては消えず、

お城の門を、軽々と押し開けると、
足はそのまま、至t山に向かった。


「こんばんは〜♡」

と、砦の門を叩いて、押しかけた柳娟を、

「んーーーーー??

なんや、この顔、ついさっきまで………。

あーーーーーーーーーーー!!?」

と、酒と肉の宴の席に、迎え入れた幻狼。


その後、人魚姫の柳娟と、
その肉体<ヴァージン>を食べた山賊の頭の幻狼は、
老いることも、生まれ変わることもなく、
至t山の地で、1000年生きたという、お話です。



fin


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