☆人魚姫遊戯☆
□八☆人魚姫遊戯☆
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☆人魚姫遊戯☆
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「なあに、これ、仔牛か鴨肉に合う、赤ワインじゃない?
あたしは、海の幸に合う、白ワインが好きなのぉ!」
びしゃ、っと、顔にかけこそしないが、グラスに口を付けない人魚姫。
召使のひとりが、慌てて、赤のボトルを下げる。
「なあに、この絵?『ヴィーナスの誕生』に変えて」
慌てて、32個のスープ缶の絵を外す、召使。
「ここ、ほこりがついてるわ、ふきなさい。
少しでも残ってたら、食事抜きよ」
人差し指で、窓枠を、こすった人魚姫。
慌てて、窓枠の、ほこりをふく、召使。
「お前、なんちゅー性格しとんねん」
「もういいわ。二人にして」
召使を下がらせると、赤ワインのグラスを手に、
天蓋付きの寝台に腰を下ろしている幻狼の隣に、
白ワインのグラスを手に、人魚姫は腰を下ろした。
「お前、海に、帰りたないんか?」
「ぜ〜んぜん♡」
「お前、ひとりで、淋しないんか?」
「ぜ〜んぜん♡」
「淋しないん?」
「ぜ〜んぜん♡」
「じゃあ、オレ、帰るわ、至t山<やま>に」
「泊ってけば?お城<ここ>に」
「アホかっ。ご宿泊なんてできるかぁ。
高速の、インターチェンジ沿いの、お城<ラブホ>か」
空にしたグラスを、テーブルの上に置き、立ち上がった幻狼。
扉へと向かった。
半分残ったグラスを、テーブルの上に置き、その後を追った柳娟。
扉の前で、ぴたり、と、足を止めた。
「幻狼、ありがとー」
「なんで、お前が、礼、言うねん。礼、言うんは、こっちや。
オレの命の恩人やからな。柳娟、おおきに。元気でな」
「幻狼も」
ひらひらと、手を振った柳娟。
ぱたん、と、扉は閉まり、部屋に、一人きり。
ベルを鳴らして、召使を呼んだ康琳。
「髪を結うの、手伝いなさいな」
ひとりの召使が、恐る恐る、お姫様の髪を束ねる。
「いたいわねっ!ひっぱらないでよっ!!」
顔に水こそかけなかったものの、怒鳴りつけるお姫様。
召使のひとりが、恐る恐る、お姫様の髪を編む。
「いったいわねっ!?ひっぱるんじゃないわよっ!?」
召使のひとりが、恐る恐る、お姫様の髪を結う。
「いったいのよっ!?ひっぱんないでよっ!!」
恐る恐る、お姫様の髪にピンを挿す。
恐る恐る、挿したピンがお姫様の頭に刺さる。
「あんたたちっ、ワザとやってるっ!?」
3人の召使を、怒鳴りつけたお姫様。
「もういいわ。ひとりにして」
召使を下がらせたお姫様。
部屋に、一人きり。
桜貝色の衣装を脱ぎ捨てる人魚姫。
生まれたままの、胸のない、上半身をした姿。
魔法にかかった、足のある、下半身をした姿。
が、縦に長い丸型の、薔薇のレリーフの鏡に、映った。
はじめて、自分の本当の姿を見せた、あの時のことを思い出し、
その思いを払拭し、払い拭うように、首を振った。
髪に挿したピンにあしらわれた七色の宝石が、ゆらゆら、揺れた。
クローゼットの扉を開け、七色の衣装の中から、
オーロラ色のドレスを選ぶ。
はじめて袖を通す、パフスリーブでオフショルダーのドレスを、
コルセットを締め上げ、ボーンを膨らませ、レースの整え、
召使の手伝いなしに、着る。
(王子様は、世界一、可愛くて、綺麗で、美しいと、言ってくださるかしら?
あの時、裸のわたしに、幻狼が言ってくれたみたいに)
その思いを一掃しようと、頭の上で、手を振った。
しかし、パフスリーブの袖は、
振っても振っても、ひらひらとは、ならない。
シュークローゼットを開け、靴を取り出す。
ポンパドール風の髪型。ロココ調のドレス。流行の靴。
縦に長い丸型の、薔薇のレリーフの鏡には、お姫様が映っていた。
タレ目がちな大きな瞳と、
その左目の下には小さい泣きボクロのある、
世界で一番、可愛くて、綺麗で、美しい、
お姫様が、映っていた。
(忘れましょっ。幻狼のことはっ)
薔薇色の口紅を手に、それを引く。
あの時の、キスが、思い出される。
(忘れましょっ)
「ファーストキスが、人工呼吸なことは」
(やばっ)
慌てて、口を噤んだお姫様。
きょろきょろ、と、あたりを見回す、一人きりの部屋。
ふぅ、と、胸を撫で下ろすお姫様。
全ての支度が整ったのが、
十六夜月が、お城のてっぺんに、
串刺しになるか、ならないかの時。
しゃなりしゃなり、と、
長いドレスの裾を引きずって、
広いお城の階段を上がったり下がったり、
廊下を行ったり来たり、
角を曲がったり戻ったりまた戻ったり曲がったりしながら、
王子様の部屋の前までくると、その扉を、叩いた。
トントントン───………
開かぬ扉には、二種類ある。
鍵がかかっているか、鍵はかかっていないが開かないか。
─────が、開いた。
扉の隙間から、
ちらり、と、熱っぽい視線をやった人魚姫に、
ちらり、と、涼しい瞳で、それを返した王子様。
閉まらぬ扉には、一種類しかない。
人魚姫は、王子様の部屋に、入った。
to be continued…