☆人魚姫遊戯☆

□七☆人魚姫遊戯☆
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☆人魚姫遊戯☆


7


月に一度、決まった形の月の日に、
左右に緑の森の、後方に青い海の広がる
小高い丘の上にある、
真っ赤な薔薇の咲き誇る庭園が望める、
白いお城を訪れ、
酒の代わりに、酒以外のもの、
肉の代わりに、分厚い書類ののった円卓の席に、
王子と家臣、それと腹心と右腕、それと幻狼とで付き、
その月の、報告(純利益)・連絡(損益)・相談(その他の損益)をすることは、定例だった。

しかし、その席に、誰かを同伴させ、
殊にそれが、女性であることは、異例だった。



馬車はお城の門の前で止まり、降り立った、幻狼と、その同伴者。

門番は、ちらり、と、その同伴者に視線をやってから、
黙って、お城の門を開けた。


「どうも〜♡」


幻狼の腕に腕を絡ませていた同伴者は、
ひらひらと、もう片方の腕の袖を振った。

その、ちらり、は、迎えの馬車の運転手も、やった。
しかし、迎えに行った先で、同乗者を、
乗車拒否する権限はなかった。

黙って、馬車の扉を開け、同乗者に手を貸し、乗り込むのを手伝った。


「どうも〜♡」


同乗者は、後部座席に乗り込むと、
愛想良く言って、袖をひらひらとさせた。


お城の案内係は、ちらり、と、同伴者に視線をやってから、
黙って、円卓のある部屋に、幻狼と同伴者を案内した。


「どうも〜♡」


袖をひらひらとさせる。


部屋の使用人は、ちらり、と、同伴者に視線をやってから、
黙って、その同伴者の為に、共の椅子を一つ、円卓に足した。


「どうも〜♡」


使用人が引いたその椅子に、足を揃えて、腰を掛けた、同伴者。


使用人が、使用人然としたお辞儀をし、扉を閉めて、部屋を出ていき、


「ねぇ?いつ、あたしのこと、王子様に紹介してくれるのぉ?」


と、今後の流れを、隣の椅子に座る幻狼に聞こうとした時、
もう一度、その扉が開き、1人、2人と、人が入ってきた。

3番目に入ってきたのが王子様だと、
一目見たことがあった人魚姫には、すぐにわかった。

例え、一目見たことがなくても、人魚姫にはわかった。

世界で一番、美しい顔をしていた。

もう一度扉が閉まり、円卓の席が、全て埋まった。


その、左目の下に泣きボクロのある、
ややタレ目がちな大きな瞳で、
熱っぽい視線をやった人魚姫のことを、
ちらり、と、見た王子様は、
ちらり、と、幻狼のことも見ると、
そのまま、書類の束に、涼しい瞳で、視線を落とした。

粛々と、厳粛に、滞りなく、
白とも黒とも色が付かずとも色の付かない定例会は進んでゆき、
数を割るともかけるとも割れずとも割らずにかけるにかけるうちに、
会は たけなわ に差し掛かる。


王子様は、最後の書類に捺印をし、言った。

「他に、なにかある者は?なんでもよい」

「特には」

「特には」

「特には」

「特には」

家臣や腹心や右腕たちが、口々に言う。

「特には」

流れで幻狼も言う。



ガンッ────────

(あだっ!!?)

円卓の下で、幻狼の足を、足で蹴った人魚姫。



「…あ、あ〜〜、ちょっとぉ、いいですかぁ、王子様ぁ。
コイツはぁ、どこで誰が生み出したのか誰も知らない、
世にも奇妙な地中の海の底の国からからやってきたぁ、モンですぅ」

「新手の妖怪みたいじゃないっ!」


円卓の席から、すく、と、その足で立ち上がった人魚姫。


「お初にお目にかかりますわ♡王子様♡あたくしの名は康琳。
7つの海を越えてやってきた、世にも美しいお姫様でございます♡」

自分で自分の紹介をする康琳。


家臣たちが、各々、顔を見合わせる。

「……お姫様?」

「てっきり、愛人かなにかだと。触れてはいけないモノだと」

「わたしは、キャバ嬢の同伴出勤かと。夜の蝶だと」

「わたしは新手の妖怪かと。見えてはいけないモノかと」

口々、口にする家臣たち。



「……そなたは、お姫様なのか?」

王子様は訊ねる。

「………はい」

頷く康琳。



「てっきり、幻狼、そちの恋人か、婚約者か妻なのかと。お似合いだが」

「ぜ〜んぜん♡」

「硬派なことは知っていたが、奥手なのだろうと思っていたが、
女性には、興味がないのだろうと考えていたのが………、いや、失礼」

「ぜ〜んぜん♡奥手だなんてェ♡
手が早くって、早くってぇ、ぜ〜んぜん、奥手なんかじゃないんですぅ♡
あたしは、ぜ〜んぜん、奥床しいんですぅ♡ねぇ!?」

「こいつは、ぜ〜んぜん、アシが早いんですぅ」

「アシが早いって、どーゆー意味よっ!?」

幻狼の左の頬を殴ろうした康琳。
の、右腕を掴んで阻止した幻狼。
の、右頬を左手で殴る。

「足も速くなきゃねっ、手の早いオトコから逃げるためにぃ〜〜〜、
おほほほほ〜(怒)」

「アシが早いモンは、はよ手ェ付けて、はよ食わな、ナマモンはぁ〜〜〜、
だ〜はははは(怒)」

「お似合いだが」


家臣たちが、各々、首をかしげる。

「しかし、また」

「なぜ、一国の姫が、山賊の頭と」

「同伴を??」

「妖魔か新手の妖怪の類かも知れませぬぞ、王子!」


フッ、と、不敵な笑みを浮かべた康琳。


「あたくしは、ある嵐で荒れる海の晩、
黄金の国へ向かう途中、船から落ち、
泳げぬ魚のように、海に沈みゆくところを、
この男に助けられました。

そのまま、この地に辿りついたまま、
自分の国に帰りたいのだけれども、7つの海の果てははるか遠く。
空行く鳥のように、自由には、自分の国に帰ることのできない身」


コトリ─────、と、小さな小箱を、
その桜貝色の、ひらひらとした右の、袖の下から取り出すと、
円い円卓の、書類の束と書類の束の、間に置き、開けた。


「これは……」

誰かの、心の声が漏れる。


「これはほんの、お近づきの印ですわ♡

金銀パールでございます。
それと、こちらは、かの沈んだ豪華客船で見つけました、ブルー・ダイヤモンド、
それから、こちらは、かの船の沈む海域で見つけました、三角水晶。
それに、こちらは、かの沈んだ海賊船で見つけました、金貨。

どうぞお納めくださいな♡」


ちらり、と、王子様に、視線を射った人魚姫。

ちらり、と、その視線を受けると、
そのまま、家臣の一人に、流した。

その家臣は、その視線を受けると、
そのまま、小さな小箱を、袖の下に納めた。


「7つの海の果ての国から参られた姫。
それは、大変な目に遭われた。無事でなにより。
この紅南の国の王子として、そなたを歓迎する」


涼しい瞳で、優しく微笑みかける。


(王子様〜〜〜〜〜〜〜♡)


その瞳をハート型に、どんな宝石より輝かせた人魚姫。


「迎えの者がくるまで、いつまでも、ここ<城>におるとよい」


(よっしゃーーーーーーー☆)

「よっしゃーーーーーーー☆」

「心の声、漏れとるぞ」

「ひかえろ、皆の者!
この姫は、やがて国と国との外交で、その財の力で、我が国に、国益をもたらす者。
家臣達が申すような、妖魔か新手の妖怪かどうかは問題ではない。
丁重に扱うように」


かくしてお城に迎え入れられた人魚姫。


家臣たちが、ひかえ、かしこまる。

案内係が、青い海の見える側の部屋へと、人魚姫を案内する。
その後を、幻狼がついてゆく。

3人の召使が、新しいお姫様に、畏れ多くも、挨拶をする。



to be continued…


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