☆人魚姫遊戯☆
□参☆人魚姫遊戯☆
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幻狼は、部屋までひっぱってきた、
女のひらひらの衣装の袖をはなした。
「お前、あん時のかっ!?」
「そーでーす♡あん時のでーす♡」
女は、衣装の袖を、ひらひらと、ひらつかせる。
「お前、名前は?」
「康琳」
「康琳」
「なあに」
「お前、人魚やろっ!?」
「あら?バレちゃってたのぉ?そう♡アタシは、人魚♡人魚姫♡」
「お前、その足、どないしたんやっ!?」
「その前に、なにか飲ませてよ。陸の上って、土っぽくってぇ。
喉、かわいちゃった」
康琳は、窓側に置かれた籐の椅子に、足を組んで座った。
「2対2対5やったっけ?」
「1対3対4よ」
幻狼は、白酒と老酒と紹興酒をそれで割ると、ひとつを、康琳に手渡した。
「ありがとー♡」
康琳は、ごくり、ごくり、と、喉を鳴らす。
「おいしー♡生き返るー♡水を得た魚の気分♪」
幻狼は、壁側の長椅子に腰を下ろすと、ぐびり、と、それをあおった。
(こっ!(濃いっ!))
「お前、その足、どないしたん?」
「だからぁ、全ての生き物は海から生まれた、ってハナシよぉ」
足を組み替え言う康琳。
「薬を飲んだの♡」
「くすりぃ!!???」
「そ♡海の魔女からもらった魔法の薬♡
一瓶、金貨50枚♡イッキに、ぐいっ、と♡」
「ようそんな怪しげなモン、飲めたなぁ」
呆れたように言う幻狼。
「アタシ、愛の為なら、基本、どんなモノでも口にするわッ♡」
ンフフ♡と、康琳は笑う。
「それで、お前、何しにきたんや?」
訝しげに、三白眼の目で康琳を見る。
「何しにって……」
訝しげに、タレ目がちな大きな瞳で、幻狼を見る。
幻狼は、問うて、すぐに、その誤りに気づいた。
海まで、会いに行かなければならないのは、自分の方だった。
この半月、頭の、いや、心のどこかに、常に、あの夜のことがあった。
心では、会いにいかなければならないと思っていても、
体が、海に近づくことを、どうしても、許さなかったのだ。
「……せやな。せやったわ。
会いに行かなアカンかったのは、オレの方やったわ。
すまん。わざわざ、山まで、来てもろて。すまんかった………」
「何しにって、お礼されにきたのよ?決まってンじゃない。
あんた、命の恩人のこのアタシに、お礼、したくないわけ?」
「お礼、したないなんて思ったことなかったが、なんかしたなくなるわ」
幻狼は、長椅子から立ち上がると、
寝台の足元に置かれた、湾曲した蓋の、重厚で豪奢な箱を開けた。
「好きなモン、持ってってや。
夜光珠、黄玉石、翡翠、瑪瑙、赤色銅玉、紫水晶、緑宝石……、
なんか、気に入るモン、あるやろ」
「そんなもん、いらない」
康琳は、組んでいた足を元に戻した。
「そんなことより」
康琳は、籐の椅子から立ち上がると、
その雲か海の上をゆくような歩みの足で、
壁側にいる幻狼に近づいてゆき、その隣に、座る。
「アタシを、王子様に紹介してくれない?」
「ハァ!?」
「幻狼、王子様と面識あるんでしょお!?政治的なアレで」
「お、王子様に紹介して、どーすんねんッ!?」
「とーぜん、王子様と結婚してお姫様になってぇ、
お城でいつまでも幸せに暮らすに決まってンじゃない!」
「できるかぁ!そんなことぉ!」
「なんでよッ!?」
「紹介なんかできるかぁ!」
「なんでよッ!?」
「できるかぁ!紹介なんて!
変なオンナ紹介して、国家<向こう>と山賊<コッチ>の関係に、
変なオンナ、紹介したせいで、亀裂か生じたらどないしてくれんねん。
変なオンナのせいで。
オレも、先代の意志や、みんな<仲間>のこと、護ってかなアカンのや。
なあ、康琳。お前には、感謝してもしきれんほど、感謝しとる。
あん時、命、救ってもろて。
そやから、山賊の命ほどの価値のある戦利品で、手ェ打ってや。
なんやら貴妃の髪飾りやら、なんやら太后の指輪やら、
なんやらパトラの首飾りやら、あるで。
お前に、ぴったりやん」
「処刑された者、ばっかじゃないっ!」
「なんとかワネットの王冠もあるで。お前に、ぴったりやん。
かぶってみぃ。……ん?」
康琳は、長椅子から立ち上がると、
また、窓側まで例のように歩いてゆき、
窓の前で、立ち止まると、叫んだ
「至t山の山賊の子分の皆サーーーーン♡」
「!!?」
「至t山の山賊のお頭サンはーーーーーーっ、
王子様とのお食事会の夜、船から落ちて、
海で、溺れて、死にかけてーーーーーーーーっ、
アタシに人工呼吸されてーーーーーーーーッ」
「なっ!!?」
「舌を入れてきましたーーーーーーー♡」
「嘘つくなーーーーーーーーッ!!!」
窓の前から遠のけようと、康琳のひらひらの袖を掴み、ひっぱる。
「ちょ、ちょっと、はなしなさいよっ!!」
康琳が振った袖に振り回され、
勢い余って、掴んでしまった胸元のひらひらが、はらり、と、めくれた。
「わっ、す、すまん────────、
ん?………………ナイ?
おっ、おとっ、男―――――――――っっ!!!???」
幻狼は、康琳の、真っ平らな胸板に釘付けになりながら、
康琳の、胸元のひらひらから手をはなす。
「お」
康琳は、胸元のひらひらを直す。
「ほほほほ〜♡バレたらしょーがないなぁ♡
あたしは、男♡それがどーしたってゆーの!?」
「人魚のくせに人間のフリして、
男のくせに王子様と結婚してお姫様になりたいんか、お前っ!!」
「どっか、変?」
「全部やっ!」
「アタシ♡愛と欲望のためなら、
生物学的分類も男の道をもふみ外すわ!!」
おほほほほ〜♡と、高笑いしている康琳と名乗った、男。
「あ…、頭、いたなってきたわ……」
おほほほほ〜♡と、高笑いを続けている、
ややタレ目がちの、左目の下に泣きボクロのある男に、
幻狼は問うた。
「お前、誰や」
to be continued…