☆人魚姫遊戯☆

□弐☆人魚姫遊戯☆
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新月の夜。


月の代わりに、真っ暗闇の辺りを明るく照らすは、
山の砦に灯った、橙色の松明の炎。

そこで月の明暗に関わらず、
夜な夜な繰り広げられるは、
騒々しさと やかましさ と陽気さに、
浮かれるとも浮かされた、
血の気の盛んな男達の宴。


「でなっ、国の王子が、

『そう固くならずとも良い。《酒池肉林》の宴だ』言うから、

シラフで、オンナなんか食えるかっ、思うて、
水みたいに酒、呑んで、
豆の葉みたいに肉、食うとったら、
いつまで経っても、オンナなんて出てこーへんねん。

そやからコッチから、

『まあ、ウシみたいに乳クサくない、
桃みたいにプルプルな肌して、カモシカみたいな足したヤツなら、
食えんこともないなァ。食え、ゆわれたら』

て、クチ、きいたったら、王子のヤツ、

『デザートのことを申しておるのか??』みたいな顔、しとったわ(笑)

だ〜はははは(笑)」

「あ〜ははは(笑) 頭、それ、王子が合ってます」


ぐびり、と、老酒をあおった幻狼。
そこへ、血相を変えた見張りの男が、宴の席に飛び込んできた。


「頭、大変です!ヘンなっ!オンナがっ!」

「ん?オンナなんて、みんな、ヘンやろ」

「砦の門のところで、追い返そう思て、
帰れ、ゆーても、全然言うこと聞かなくて………」

「なんやその聞き分けのない女は。で、どーなったんや?」

「それで───………」



トントン───………



叩かれた扉に、一斉に、宴の席にいた男達の目が向く。



トントン───………



見張り役の男が、扉へ向かおうとする。


「待て。オレが出る」


叩かれる扉の前に立った幻狼。



「誰や?─────合言葉、言うてくれるか?」



トントン───………



「合言葉は?」


ドンドンッ!!


「合言葉はーーーーーっ!!?」


ドンドンッ!!


「合言葉ーーーーっ、言うてもらえますかーーーーーッ!!?」


ドンドンッ!!


「合言葉言えーーーーっ、言うとるやろーーーーーッ!!?」



ドコオッ!!!


「なっ!!?」


ガラガラと音を立て、崩れ落ちた一枚板の扉の瓦礫の破片から、
間一髪、逃れた幻狼。


「……───えらい怪力やな…」

攻児が呟く。



「こんばんわー♡」



開(あ)いた扉の穴の向こう側に、女が、立っている。


美しい長い髪を、水に映る月ように、ゆらめき光り輝かせ、
水色の帯で蝶々結びを前でし、袖と胸元がひらひらした、
桜貝色の丈の短い衣装の裾からは、すらりと伸びたおみ足がのぞく。


「頭!そいつです!変な!女!」

「見りゃわかるわッ!」


すらりと伸びたおみ足で、瓦礫の山を、ぴょん、と、一越えし、
部屋の中に入ってくる。

そうして幻狼の前までくると、雲か海の上をゆくような、
なめらかな歩みの足を、ぴたり、と、止めた。


「お前、誰やっ!?ひとンちの扉、壊しといて、
こんばんわー♡や、あらへんがなッ!?」


ニコニコと、色気のある笑顔を振りまく。


「お前、誰じゃ?」


ニコニコと、色気を振りまく。


「─────ここはな、お前<オンナ>の来るようなとこ、ちゃう。
その白いほっそい喉、ココにおる飢えた狼達が、
牙で掻っ切って、血で真っ赤に染めることくらい朝飯前やで。
痛い目遭う前に、その自分で壊した扉から、今スグ出て───………け」


ややタレ目がちの、左目の下に泣きボクロのある、その顔を、
真正面から見た幻狼。


「んーーーーー?」

三白眼の目で、訝しがる。


「なんや、この顔、どっかで………」

三白眼の目を、見開く。


「あーーーーーーーーーーー!!?」

幻狼は、大声をあげた。


「そーでーす♡あの時、海で溺れ死にかけた、山賊のお頭を助けた者でーす♡」


ひらひらと、衣装の袖をひらつかせる。


「溺れた?」
「死にかけた?」
「山賊のお頭が……??」


ザワザワと、子分たちがざわめく。


「わーーッ!わーーッ!
思い出したわ!コイツは〜〜、アレやっ!!
オレの〜〜、婆さんの〜〜、親戚の〜〜、婆さんの〜〜、同級生やっ!
今、思い出したわ!」

「頭、それだと、婆さんです」

「ちょ、ちょっと、コッチで話そかぁ!?」

「あら、ココでいーのに。アタシも、お酒飲みたーい♡
ちょっと、そこのお兄サン♡
アタシ、白酒と老酒と紹興酒を、1対3対4ねー♡


って、ちょっとぉ!?幻狼!衣装の袖、ひっぱらないでよっ!!
伸びちゃうでしょーーー!?コレ、今日、新調したばっかなんだからーーーッ!」

「ええから!酒なら向こうで、吐くほど飲ませたるわ!
ちょ、ちょっと、コッチ<部屋>で話そかぁ!?」


幻狼が、ひらひらの衣装の袖をひっぱる。
女は、山の砦の最上階の最南端にある幻狼の部屋まで、
ズルズルと、地に足がつかないかのように、引きずられてゆく。



to be continued…


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