☆短編小説☆

□☆お飯事遊戯(おままごとゆうぎ)2☆
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☆お飯事遊戯(おままごとゆうぎ)2☆
学校法人朱雀幼稚園。お遊びの時間2。


【1】


ロッカーの前に、紫色の髪をした園児が、ひとり。

「なにしとん?」

「昨日、ママと一緒にクッキーを焼いたの。
彩貴帝クンにあげようと思って持ってきたんだけど、
封してたシールがはがれちゃって。赤いハート型のシール」

「どーせ、食う時、はがすからええやん」

怪獣のおもちゃを手にした、
橙色の髪をしたデリカシーのない園児が、ひとり。

「あーあ、せっかく可愛くラッピングしたのにぃ」

封のされてないクッキーの包みを手に、
とぼとぼと、園庭の方へと歩いてゆく。


「クンクンクンクン♡」

「げっ!美朱っ!?」

「あー!クッキーだぁ♡」

「あんた、いつの間に!?」

「わー!コレ、柳宿が焼いたの?!」

「そっ、そぉよぉ!?」

「へー!柳宿って、お菓子作り上手なんだー!」

「ま、まぁね、乙女ならとーぜんよっ♡」

「あたしもクッキー焼くんだけど、
10回に9回は、食べると、動悸・めまい・息切れになっちゃうんだ!」

「それはもう、クッキーじゃないわよッ!」

「ねー!1枚、ちょーだいっ♡」

「だめっ、これは彩貴帝クンにあげるんだもんっ」

ぎゅっと、クッキーの包みを胸に抱え込んだ柳宿。

「えー!」

「『えー!』じゃないっ!」

「なんで〜?」

「『なんで〜?』じゃないっ!」

「そんなたくさんあるのに〜?」

「美朱にあげる分はないのっ!」

ぷいっ、と、明後日の方向を向いた柳宿。

「ちぇ〜!」

「『ちぇ〜!』じゃないっ!」

「もー!」

「『もー!』じゃないっ!」

「ふ〜んだ!柳宿のケチんぼうっ!」

「ケチんぼうでけっこうよっ!」

「わかったもんっ!」

ぷいっ、と、明後日の方向を向いた美朱。

「わかったら、あっち行ってぇ!」

ぷいっ、と、明後日の方向を向いたまま、
園庭の方へと歩いてゆく柳宿。

「ったく、邪魔なコねェ!
彩貴帝クンも、あんなクッキー1枚焼けないような、
料理下手で食い意地のはったコのどこがいーのかしら?!
あたしのほーが、家庭的だし、かわいーわよっ!


─────って、わかったンなら、どっか、行きなさいよッ!」

「わかってるんけど〜♡体が勝手に〜♡クンクンクンクン♡」

パタパタパタパタと、園庭の方へと逃げてゆく柳宿。
パタパタパタパタと、園庭の方へその後を追う美朱。

(もうっ、こんなのに追いかけ回されてたら、
彩貴帝クンにクッキー、渡せないじゃないッ!



─────あっ)


パタリ、と、白い上履きの足を止めた柳宿は、
くるり、美朱の方へ向き直ると、
にやり、と、意地の悪い笑みを浮かべた。


「美朱…ちょっと聞いてくださる?」

「どうしたの?」

「お前、わっるい顔、しとるで」

実は、と、右手を右の頬に当て、
左手は、ぎゅっと、クッキーの包みを胸に抱え、
唐突に、話を切り出した柳宿。

「この前、裏庭の底なし沼のほとりをお散歩中に、
大っっ事な、園章のバッジを落としてしまったの」

左目の下に小さな泣き黒子のある、
ややタレ目がちな大きな瞳に、

「あれは、あたしがこの学校法人朱雀幼稚園に入園が決まった時に、
父と母が買ってくれた新品の園章バッジ」

憂いを含ませると潤ませて、

「あたしのファンの取り巻きたちは、底なし沼を怖がって探してきてはくれず。
ずっと気になってるのよ」

ふぅ、と、ため息をついた柳宿に、
あ、と、美朱は、声を出した。

「わたしが探してきてあげよーか?」

素直で真っ直ぐな瞳で、柳宿を見る。

「え、でも…。いくら父と母が買ってくれた、大っっ事な園章バッジだからって…。
沼は危険で危ないし、底が底知れないのよ?水草は、もがけばもがくほど絡まるし。
でも、美朱がそこっっまで言うなら。お願いしますわ」

胸に抱えたクッキーの包みを指さして、美朱を見る。

「お礼として、チョコチップクッキーを、1枚差し上げますわ♡」

「本当!?やりー♪」

無事に戻ってこれたらよー♡と、裏庭の方へ消えてゆく美朱に声をかける柳宿に、
まかせといてー♪と、手を振りながら、裏庭の方へと消えてゆく美朱。

その姿が完全に見えなくなると、柳宿は、

「バーカ」

と、舌を出した。


☆つづく☆
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