☆陰日向遊戯☆【柳宿×房宿】
□6☆陰日向遊戯☆
1ページ/1ページ
☆陰日向遊戯☆
6
「なんで、あんたは、あたしを、
妓楼を逃げ出した娼婦だと、思うんだい?」
馬車の荷台に、
片膝は立て、片足は投げ出すようにして座る姉。
妹に訊ねた。
「なんでって」
「なんでさ?」
ガタン、と、荷馬車が大きく揺れた。
「あんたは、あたしを、
なんで、妓楼を逃げ出した娼婦だと、思うんだい?」
また、なにか、大きな石の上でも通ったのか、
ガタン、と、荷馬車は大きく揺れ、
ぷるん、と、姉の胸が、揺れる。
「鼻につくほど、香の匂いがするかい?」
「別に」
「咽(むせ)そうなほど、粉の匂いがするかい?」
「別に」
ガタン、ガタン、と、荷馬車は揺れ、
ぷるん、ぷるん、と、姉の胸は揺れた。
「康琳……とか、言ったね」
「…ええ、そうだけど」
「あんた、なんで、あたしを、娼婦だと思ったのさ?」
「なんでって」
タレ目がちな目で、姉の顔を見る。
「娼婦の匂いを嗅ぎ分けられるは、男だけだよ」
切れ長の目で、妹の目を見る。
荷馬車が、ガタン、ガタン、ガタン、と揺れ、
姉の胸は、ぷるん、ぷるん、ぷるん、と揺れたが、
妹の胸は、ぷるん、とも、揺れなかった。
切れ長の目で、妹の、顔から下を見た姉と、
タレ目がちな目で、姉の、顔から下を見た妹。
「よくその胸で、あたしの妹のフリしたねェ!?」
「よくその胸で、アタシの姉のフリしたわよねェ!?」
かたや、山のような胸の姉と、かたや、谷のような胸の妹。
似ていないと言われれば、どこも似ていないが、
似ていると言われれば、どこか似ていた。
「…で、でも、あたしの方が、若くてかわいーしっ♡
それに、胸なんて、いざとなればクスリで手に入るコト、知ってるしぃ♡
アタシ♡」
「馬鹿な子だねっ!?クスリで手に入れようだなんて!
クスリなんかに手を出したら、姉妹の縁、切るからねっ!?
ヤッていいのは、媚薬だけだよっ!」
「おねいちゃんも、ヤッてんじゃんッ!?」
ガタン、と、荷馬車が大きく揺れ、
ぷるん、と、揺れた、姉の胸と、
ぷるん、とも、揺れなかった、妹の胸。
「妹のフリしたのは、あたしだけど」
「そぉね」
「姉のフリしたのは、お前だろ」
「まぁね」
「じゃあ、違うの?」
「さぁね」
ガタン、ガタン、と、荷馬車が揺れ、
「このままっ、妓楼にっ、連れ戻されちゃっていいの?!」
と、問うた妹に、
ガタン、ガタン、ガタン、荷馬車が揺れ、
「だからっ、あんたはっ、あたしがっ、
―なんで―、逃げ出した娼婦だと思うんだい!?妓楼から!」
と、問い返した姉。
「だからっ、好きでもない客の男とヤルのが嫌で、
逃げ出してきたんだろっ!?妓楼から!」
と、答えた妹に、
シタリ、と、姉は、笑みを浮かべた。
「な、なんだよ」
たじり、と、した妹。
「な、なによ?」
と、訊き返す。
姉は、浮かべた笑みのまま、妹に近づくと、右手を伸ばした。
触られまいと、胸を隠した妹の頬に、姉の手が触れた。
「……ひっ…」
思わずピクンと体を震わせた妹を見て、
「あんた、処女だね」
と、姉は言った。
「男に抱かれることを、なんもわかってないね」
ガタン、と、荷馬車が揺れ、姉と妹の体が近づく。
「客の男と寝るのが嫌で逃げ出そうなんて、
……そんなこともあったかもしれないけど、
娼婦はね、嫌や好きで、男と寝ないんだよ。
あんたも、娼婦に同情するような、バカで優しい女ならわかるだろ?
自分以外の誰かになりきる、所詮、この世は、お芝居なことが。
そうとわかって、男に抱かれて、それでもあるんだよ。
『あンあン』と、感じてる演技はできても、
『好き』の台詞が、どうしても言いたくない時が、女には。
まあ、処女には、わからないだろうけどね!
知りたきゃ、一度、男と寝てみるといいさ」
姉は、馬車の荷台に、元のように座り直すと、言った。
「…そうすれば、自分が誰を、一番、愛してるか、嫌でもわかるから」
妹も、馬車の荷台に、元のように座り直すと、訊いた。
「─────結末は?」
タレ目がちな目で姉の顔を見る。
「だって、所詮この世はお芝居だったら、結末は、ハッピーエンドなんでしょ?」
切れ長の目で妹の顔を見る。
「物語りの結末は、いつでもハッピーエンドでなきゃ♡ね?」
康琳は、泣きボクロのある方の目でウインクをしてみせた。
「…そうだねぇ……」
姉は、その目を宙に向けた。
布張りの荷馬車の天井は、長年の雨風にさらされて、
ぽつん、ぽつん、と、まばらに穴が開いていて、
そこから差し込む光が、天上の星々のように見えた。
「そんな、多くのことは望まないよ。
愛する人と一緒にいられれば。
それで、小さな家を建てて、
大きな格子窓と、小さな観音開きの扉と、
部屋には、古い陶磁器の壺があって♡
真っ白なユリと青いリンドウ♡
瑞獣の横にはあなた♡あなたに居てほしい。
─────それ以外、なにも望まないよ」
切れ長の目を、夢見がちにさせる。
「なんだよそれ」
タレ目がちの目を、ジト目がちにする。
「あっ!?馬鹿にしたねっ!?」
かっ、と、白い頬を、馬車の荷台で、赤色銅玉<ルビー色>に染めた姉。
「じゃ、あんたの、夢はなんなのさ!?あんたの夢物語の結末はっ!」
「あたしの夢?あたしの夢物語の結末は、そぉねぇ、─────お姫様♡」
「なんだいそりゃ」
切れ長の目を、ジト目にする。
「国のお妃様になってぇ、
可愛い衣装着て、美味しい物を食べて、
国を挙げて、1週間にわたって式を挙げて、
美人でキレイで国民に愛されて、
王子様といつまでも、幸せにくらすの♡
絶対、幸せになるんだから♡
─────絶対、幸せにしてあげるんだから」
タレ目がちな目を、少しだけ、夢見がちにさせる。
「ふんっ、あたしの夢とそう変わらないじゃないさ」
「あーら、あたしの夢の方が現実的よ〜♡
なんだよ、瑞獣の横にはあなたって」
「なっ!?あたしの夢の方が堅実的だよっ!
なんだいっ、1週間にわたって式挙げるって!国が傾くわっ!」
「結婚式には呼んだげる♡」
「姉として出席してあげる。
どーせ、引き出物は、小籠包かなんかだろうけど。
ふたりの愛に勝るとも劣らない、
アツアツの溢れる愛の肉汁に、火傷注意♡とでも、言いたいのかい?」
「ちがうもーん。小籠包じゃないもーん」
「じゃあ、なんだい?」
「焼き小籠包」
「同じだよっ!(怒)」
「ちがうもーん♡もっと、アツアツなんだもーん♡」
妓楼街に向かう荷馬車の荷台で、
キャッキャッとは騒ぐ、ふたりの姉妹。
揺れがおさまり、荷馬車が止まったのがわかった。
ばさりと、荷台の入口を覆う布が上がる。
「降りろ」
命令された通り、荷馬車を降りる姉。妹もその後に続く。
続