☆陰日向遊戯☆【柳宿×房宿】

□6☆陰日向遊戯☆
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☆陰日向遊戯☆

6

「なんで、あんたは、あたしを、
妓楼を逃げ出した娼婦だと、思うんだい?」


馬車の荷台に、
片膝は立て、片足は投げ出すようにして座る姉。
妹に訊ねた。


「なんでって」

「なんでさ?」


ガタン、と、荷馬車が大きく揺れた。


「あんたは、あたしを、
なんで、妓楼を逃げ出した娼婦だと、思うんだい?」


また、なにか、大きな石の上でも通ったのか、
ガタン、と、荷馬車は大きく揺れ、
ぷるん、と、姉の胸が、揺れる。


「鼻につくほど、香の匂いがするかい?」

「別に」

「咽(むせ)そうなほど、粉の匂いがするかい?」

「別に」

ガタン、ガタン、と、荷馬車は揺れ、
ぷるん、ぷるん、と、姉の胸は揺れた。


「康琳……とか、言ったね」

「…ええ、そうだけど」

「あんた、なんで、あたしを、娼婦だと思ったのさ?」

「なんでって」

タレ目がちな目で、姉の顔を見る。

「娼婦の匂いを嗅ぎ分けられるは、男だけだよ」

切れ長の目で、妹の目を見る。


荷馬車が、ガタン、ガタン、ガタン、と揺れ、
姉の胸は、ぷるん、ぷるん、ぷるん、と揺れたが、
妹の胸は、ぷるん、とも、揺れなかった。


切れ長の目で、妹の、顔から下を見た姉と、
タレ目がちな目で、姉の、顔から下を見た妹。


「よくその胸で、あたしの妹のフリしたねェ!?」

「よくその胸で、アタシの姉のフリしたわよねェ!?」


かたや、山のような胸の姉と、かたや、谷のような胸の妹。

似ていないと言われれば、どこも似ていないが、
似ていると言われれば、どこか似ていた。


「…で、でも、あたしの方が、若くてかわいーしっ♡
それに、胸なんて、いざとなればクスリで手に入るコト、知ってるしぃ♡
アタシ♡」

「馬鹿な子だねっ!?クスリで手に入れようだなんて!
クスリなんかに手を出したら、姉妹の縁、切るからねっ!?
ヤッていいのは、媚薬だけだよっ!」

「おねいちゃんも、ヤッてんじゃんッ!?」


ガタン、と、荷馬車が大きく揺れ、
ぷるん、と、揺れた、姉の胸と、
ぷるん、とも、揺れなかった、妹の胸。


「妹のフリしたのは、あたしだけど」

「そぉね」

「姉のフリしたのは、お前だろ」

「まぁね」

「じゃあ、違うの?」

「さぁね」


ガタン、ガタン、と、荷馬車が揺れ、

「このままっ、妓楼にっ、連れ戻されちゃっていいの?!」

と、問うた妹に、

ガタン、ガタン、ガタン、荷馬車が揺れ、

「だからっ、あんたはっ、あたしがっ、
―なんで―、逃げ出した娼婦だと思うんだい!?妓楼から!」

と、問い返した姉。

「だからっ、好きでもない客の男とヤルのが嫌で、
逃げ出してきたんだろっ!?妓楼から!」

と、答えた妹に、
シタリ、と、姉は、笑みを浮かべた。

「な、なんだよ」

たじり、と、した妹。

「な、なによ?」

と、訊き返す。

姉は、浮かべた笑みのまま、妹に近づくと、右手を伸ばした。
触られまいと、胸を隠した妹の頬に、姉の手が触れた。

「……ひっ…」

思わずピクンと体を震わせた妹を見て、

「あんた、処女だね」

と、姉は言った。


「男に抱かれることを、なんもわかってないね」


ガタン、と、荷馬車が揺れ、姉と妹の体が近づく。


「客の男と寝るのが嫌で逃げ出そうなんて、
……そんなこともあったかもしれないけど、
娼婦はね、嫌や好きで、男と寝ないんだよ。

あんたも、娼婦に同情するような、バカで優しい女ならわかるだろ?
自分以外の誰かになりきる、所詮、この世は、お芝居なことが。

そうとわかって、男に抱かれて、それでもあるんだよ。
『あンあン』と、感じてる演技はできても、
『好き』の台詞が、どうしても言いたくない時が、女には。

まあ、処女には、わからないだろうけどね!
知りたきゃ、一度、男と寝てみるといいさ」


姉は、馬車の荷台に、元のように座り直すと、言った。



「…そうすれば、自分が誰を、一番、愛してるか、嫌でもわかるから」



妹も、馬車の荷台に、元のように座り直すと、訊いた。



「─────結末は?」



タレ目がちな目で姉の顔を見る。

「だって、所詮この世はお芝居だったら、結末は、ハッピーエンドなんでしょ?」

切れ長の目で妹の顔を見る。

「物語りの結末は、いつでもハッピーエンドでなきゃ♡ね?」

康琳は、泣きボクロのある方の目でウインクをしてみせた。


「…そうだねぇ……」

姉は、その目を宙に向けた。

布張りの荷馬車の天井は、長年の雨風にさらされて、
ぽつん、ぽつん、と、まばらに穴が開いていて、
そこから差し込む光が、天上の星々のように見えた。

「そんな、多くのことは望まないよ。
愛する人と一緒にいられれば。

それで、小さな家を建てて、
大きな格子窓と、小さな観音開きの扉と、
部屋には、古い陶磁器の壺があって♡
真っ白なユリと青いリンドウ♡
瑞獣の横にはあなた♡あなたに居てほしい。

─────それ以外、なにも望まないよ」


切れ長の目を、夢見がちにさせる。

「なんだよそれ」

タレ目がちの目を、ジト目がちにする。

「あっ!?馬鹿にしたねっ!?」

かっ、と、白い頬を、馬車の荷台で、赤色銅玉<ルビー色>に染めた姉。

「じゃ、あんたの、夢はなんなのさ!?あんたの夢物語の結末はっ!」

「あたしの夢?あたしの夢物語の結末は、そぉねぇ、─────お姫様♡」

「なんだいそりゃ」

切れ長の目を、ジト目にする。

「国のお妃様になってぇ、
可愛い衣装着て、美味しい物を食べて、
国を挙げて、1週間にわたって式を挙げて、
美人でキレイで国民に愛されて、
王子様といつまでも、幸せにくらすの♡
絶対、幸せになるんだから♡

─────絶対、幸せにしてあげるんだから」

タレ目がちな目を、少しだけ、夢見がちにさせる。

「ふんっ、あたしの夢とそう変わらないじゃないさ」

「あーら、あたしの夢の方が現実的よ〜♡
なんだよ、瑞獣の横にはあなたって」

「なっ!?あたしの夢の方が堅実的だよっ!
なんだいっ、1週間にわたって式挙げるって!国が傾くわっ!」

「結婚式には呼んだげる♡」

「姉として出席してあげる。
どーせ、引き出物は、小籠包かなんかだろうけど。
ふたりの愛に勝るとも劣らない、 
アツアツの溢れる愛の肉汁に、火傷注意♡とでも、言いたいのかい?」

「ちがうもーん。小籠包じゃないもーん」

「じゃあ、なんだい?」

「焼き小籠包」

「同じだよっ!(怒)」

「ちがうもーん♡もっと、アツアツなんだもーん♡」

妓楼街に向かう荷馬車の荷台で、
キャッキャッとは騒ぐ、ふたりの姉妹。

揺れがおさまり、荷馬車が止まったのがわかった。

ばさりと、荷台の入口を覆う布が上がる。

「降りろ」

命令された通り、荷馬車を降りる姉。妹もその後に続く。




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