☆陰日向遊戯☆【柳宿×房宿】
□4☆陰日向遊戯☆
1ページ/1ページ
☆陰日向遊戯☆
4
西の市街地を、ひとり、とことこと、ゆく康琳。
急ぐ旅でもない。
織物問屋が目に止まり、
見たことのない柄の織物や、
南とは違う民族衣装を、物珍しげに、
店<ショーウィンドウ>越しに、
眺めていると、
「そこの可愛いお嬢さん」
と、声をかけられ、
康琳は、長い髪を揺らしながら振り返った。
「見ない顔だね。それに、見ない衣装だ。
どこか違う街から舞い降りた天使かな?」
花屋の店主が話しかける。
「ありがとう♡」
右手を右の頬にあて、にっこりと、微笑む康琳。
「しかし、ないか足りない。
美しいレディは、美しい花を持って歩かなきゃ!」
康琳の腕に、白い水仙と色とりどりの蘭と赤い南天の実の、
美しい花の束を抱えさせる、花屋の店主。
「お金はないわ」
「一文も?」
康琳は、衣装の袂をまさぐる。
出てきたのは─────、
柘植の櫛と、朱の手鏡と、桃色の香り紙が数枚。
「それじゃダメだ」
店主は肩をすくめ、言って、
天使の腕から花の束を、受け取り返した。
「最近の天使は、お金も持たずに市街地をゆくのかい」
「そうみたい」
康琳も肩をすくめ、言った。
店主は、花の束から南天の枝を1本、引き抜くと、
康琳に渡した。
「プレゼントだ。女房には、内緒だ。
天使に、タダで花をやったなんて知れたら、
コッチがお空に召されちまう」
「わ〜♡嬉しい〜♡ありがと〜♡」
赤い南天を手に、
やってきたのは市街地の中心部。
街の象徴である歴史的建造物の縁に腰を下ろし、
冷たくて甘いデザートのことを、考えていると、
「なぁ」
と、声をかけてきたのは、
康琳と同い年くらいか、
もう少し、ヤンチャな少年っぽさを残す、少年。
「ひとりなん?」
「そぉね」
「誰か待っとるん?」
「まぁね」
「オトコか?」
「さぁね」
康琳は、適当な相槌を打つ。
「お前、ここのヤツ、ちゃうやろ」
「そぉね」
「南やろ」
「そぉね」
「やっぱなァ!そないナリして、
そない喋り方で、そない気取ったヤツ、
いかにも南におりそうやもんなァ!」
「そぉね。あんたは、バカっぽくて、アホっぽくて、
デリカシーなさそーで、いかにも西にいそぉ」
「待ちぼうけか?」
「違うわよ」
デリカシーのない少年を、
康琳は、その魅力的な瞳で、
ギロリ、と、睨み付けた後、
ぷいっ、と、その魅力的な顔を背けた。
「こーんな、美人でおしとやかで、
気立てがよくてお上品な、可愛コちゃんがっ、
待ちぼうけなんて食らうわけないでしょ」
「自分でゆーかぁ?」
「あーら、南では、都一番の美少女で、
大変だったんだからぁ。おほほほほ〜(笑)」
「南の都一の美少女が、
西の街で待ちぼうけ食らうなんて、
南の都のオンナもたいしたことないなあ!
あ〜はははは(笑)
あだーーーーーーーー!!!」
南天の枝の切り口で、少年の眉間を刺す康琳。
「西の街まできて待ちぼうけなんて、暇やなぁ」
「あんたより、暇じゃないわよ」
「どっか、遊び行こうや」
「いいわよ」
この街に限らず、若い男女(?)のよくある日常に、
この西の地が、南の地より、昼に夜が近く感じたのは、
吹く風に、香(こう)や白粉(おしろい)、男の匂いが、
混じっているからかもしれない。
吹いた風に、康琳は、声を上げた。
「あ」
「ん?」
「あ」
「ん?」
「あ、アタシ、もう行かなきゃ!じゃあね〜♡」
「あ、ちょっと待てぇ!?名前ぐらいゆーてけやッ!」
風のように、去る康琳。
どこにでもある市街地の、
中心地をはなれ、来た道を通り、
表参道を外れた裏路地まで戻ってくると、
あとは、蛇の道は蛇。
裏の裏の裏の裏の裏の道を、
南天を片手に、とことこと、ゆく。
時刻は、未の刻。
続