☆陰日向遊戯☆【柳宿×房宿】

□4☆陰日向遊戯☆
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☆陰日向遊戯☆

4

西の市街地を、ひとり、とことこと、ゆく康琳。

急ぐ旅でもない。


織物問屋が目に止まり、
見たことのない柄の織物や、
南とは違う民族衣装を、物珍しげに、
店<ショーウィンドウ>越しに、
眺めていると、

「そこの可愛いお嬢さん」

と、声をかけられ、
康琳は、長い髪を揺らしながら振り返った。


「見ない顔だね。それに、見ない衣装だ。
どこか違う街から舞い降りた天使かな?」

花屋の店主が話しかける。

「ありがとう♡」

右手を右の頬にあて、にっこりと、微笑む康琳。

「しかし、ないか足りない。
美しいレディは、美しい花を持って歩かなきゃ!」

康琳の腕に、白い水仙と色とりどりの蘭と赤い南天の実の、
美しい花の束を抱えさせる、花屋の店主。

「お金はないわ」

「一文も?」

康琳は、衣装の袂をまさぐる。


出てきたのは─────、

柘植の櫛と、朱の手鏡と、桃色の香り紙が数枚。


「それじゃダメだ」

店主は肩をすくめ、言って、
天使の腕から花の束を、受け取り返した。

「最近の天使は、お金も持たずに市街地をゆくのかい」

「そうみたい」

康琳も肩をすくめ、言った。

店主は、花の束から南天の枝を1本、引き抜くと、
康琳に渡した。

「プレゼントだ。女房には、内緒だ。
天使に、タダで花をやったなんて知れたら、
コッチがお空に召されちまう」

「わ〜♡嬉しい〜♡ありがと〜♡」


赤い南天を手に、
やってきたのは市街地の中心部。

街の象徴である歴史的建造物の縁に腰を下ろし、
冷たくて甘いデザートのことを、考えていると、

「なぁ」

と、声をかけてきたのは、
康琳と同い年くらいか、
もう少し、ヤンチャな少年っぽさを残す、少年。

「ひとりなん?」

「そぉね」

「誰か待っとるん?」

「まぁね」

「オトコか?」

「さぁね」

康琳は、適当な相槌を打つ。


「お前、ここのヤツ、ちゃうやろ」

「そぉね」

「南やろ」

「そぉね」

「やっぱなァ!そないナリして、
そない喋り方で、そない気取ったヤツ、
いかにも南におりそうやもんなァ!」

「そぉね。あんたは、バカっぽくて、アホっぽくて、
デリカシーなさそーで、いかにも西にいそぉ」

「待ちぼうけか?」

「違うわよ」

デリカシーのない少年を、
康琳は、その魅力的な瞳で、
ギロリ、と、睨み付けた後、
ぷいっ、と、その魅力的な顔を背けた。

「こーんな、美人でおしとやかで、
気立てがよくてお上品な、可愛コちゃんがっ、
待ちぼうけなんて食らうわけないでしょ」

「自分でゆーかぁ?」

「あーら、南では、都一番の美少女で、
大変だったんだからぁ。おほほほほ〜(笑)」

「南の都一の美少女が、
西の街で待ちぼうけ食らうなんて、
南の都のオンナもたいしたことないなあ!
あ〜はははは(笑)



あだーーーーーーーー!!!」

南天の枝の切り口で、少年の眉間を刺す康琳。


「西の街まできて待ちぼうけなんて、暇やなぁ」

「あんたより、暇じゃないわよ」

「どっか、遊び行こうや」

「いいわよ」


この街に限らず、若い男女(?)のよくある日常に、
この西の地が、南の地より、昼に夜が近く感じたのは、
吹く風に、香(こう)や白粉(おしろい)、男の匂いが、
混じっているからかもしれない。

吹いた風に、康琳は、声を上げた。

「あ」

「ん?」

「あ」

「ん?」

「あ、アタシ、もう行かなきゃ!じゃあね〜♡」

「あ、ちょっと待てぇ!?名前ぐらいゆーてけやッ!」

風のように、去る康琳。


どこにでもある市街地の、
中心地をはなれ、来た道を通り、
表参道を外れた裏路地まで戻ってくると、
あとは、蛇の道は蛇。

裏の裏の裏の裏の裏の道を、
南天を片手に、とことこと、ゆく。

時刻は、未の刻。



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