☆陰日向遊戯☆【柳宿×房宿】

□3☆陰日向遊戯☆
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☆陰日向遊戯☆

3

「美味しいかい」

「うん」

「疲れたかい」

康琳は、ぱくぱくと、料理を口に運ぶ。
噂話に、聞き耳を立てながら。


「捕まえた者には、褒美の金。
捕まった娼婦には、きつい仕置きか せっかん だ。
火責めか水責めか針山か」

「おいおい、それじゃ、地獄じゃねぇか」

「下界じゃ、地獄を見るのは女。天国に行くのは男。
それが、世の常、成れの果てってもんだ」

「ちげぇねぇ」

相槌を打った男は、下世話な笑みを浮かべながら、
同じように下世話な笑みを浮かべている男に、
質問を返した。

「捕まれば、地獄を見るのに、
なぜ、娼婦は妓楼から、逃げ出そうとする?」

「そりゃ、地獄だからさ」

「ちげぇねぇ」

答えた男と、もう一度相槌を打った男は、
手にした盃から、酒がこぼれるほど、
体を揺らしながら、下世話な笑い声を上げた。


(地獄ねぇ……)


康琳は、ぱくん、と、
海鮮焼きそばのエビをほうばった。

「疲れたろ。疲れたよね?疲れてるよね?」

康琳は、海鮮焼きそばの麺をすすった。


「しかし、若い、娼婦かひとり、妓楼を逃げ出して、
その女が、娼婦か否か、見分けなんかつくもんかねぇ?
娼婦じゃない女と、並んで歩いているならまだしも」

「女は女だ」

「ちげぇねぇ」

相槌を打った男は、下世話な笑みを浮かべながら、
同じように下世話な笑みを浮かべている男に、
質問を返した。

「もし、娼婦の女と娼婦じゃない女─────お妃が、
並んで歩いていたとして、
どっちが娼婦で、どっちが妃か、どうやって見分ける?」

「そりゃ、妃じゃない方が娼婦さ」

「ちげぇねぇ」

二人の男は、また下世話な笑い声を上げた。


康琳は、炒め物をつまんだ。

「疲れたろ」

「そぉね」

康琳は、100万回目の、相槌を打った。

「─────ちょっと、休憩していかないかい?」

「そぉね」

康琳は、100万1回目の、相槌を打ちながら、
タピオカミルクティーをすった。


「それにしても、その若い娼婦とやらは、
一体全体、どこへ、逃げ込んだってのか」

「娼婦が逃げ込みそうな場所なんて、
娼婦にしかわからねぇ。それか、妃か。
蛇の道は蛇さ」

「ちげぇねぇ」

「ちょっと、休憩していこうよ」

「どうせなら、娼婦とお妃、どっちとも、寝てぇもんだ。
金は、倍払うことになるが」

「なんもしないからっ!なんもしないからさぁ!?」

「金を払わず寝る女なんて、タダの女だ。
それに、タダより怖いモノはない」

「ちげぇねぇ」

下世話な笑い声を上げる二人の男。

「先っちょだけっ!先っちょっだけでいーからっ!!」

必死にホテルに連れ込もうとする男。

「だーーーーーっ(怒)(怒)!!しつっこい!!」

キレる康琳。


「肉入り饅頭ひとつで、あたしと寝ようなんて。
安くみないでよね!」

勢いよく、肉入り饅頭以外も遠慮なく食べた、
食事の席から立ち上がると、

「ご馳走様でしたっ♡美味しかったわ♡じゃあね〜♡」

と、泣きボクロのある方の目で、
ひとつ、ウインクをし、
男と二人で入ってきた店を、一人で出て行く。

一人、店に取り残された男は、
美人で可愛くて若い女のウインク一回が、
化けた伝票に手を伸ばした。

(まあ、安いもんだ)


他の客たちは、気にも留めない。

それも、この街の、よくある日常のようだった。




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