☆陰日向遊戯☆【柳宿×房宿】
□1☆陰日向遊戯☆
1ページ/1ページ
☆陰日向遊戯☆
1
「疲れたかい」
男に話しかけられ、康琳は、
少し見ていた白昼夢から、
今、覚めたばかりのような目を、
チラリ、と、男に向けた。
そんなつもりも、気も、ソッケもない、ただの仕草。
しかし、そそられるのは、
ちょっと下がり気味の大きな瞳の、
その左目の下にある、小さな泣きボクロのせいか。
男は、ブルッと体を震わせた。
「疲れたろ」
「……そぉね」
「お腹、空かないかい?」
男は、二頭の馬の手綱を、軽く引く。
速度を軽く落とす、馬車。
「お腹、空いたろ」
「そぉね」
康琳は、プルプルの肉入り饅頭のことを考えた。
紅南国の都栄陽を出て、5日。
うかつにも、初日に旅費を全部スリにやられてしまったが、
ヒッチハイクのコツも宿乞いのコツも、すぐにつかめた。
それは、美人で可愛いこと。
若いこと。
そして、女であること。
そして、美人で可愛くて若くて女(?)である康琳の、
それは、すぐに役立った。
艶やかな髪をなびかせ、
衣装の裾から白い素足を見え隠れさせ、
泣きボクロのある方の目でウインクをしてみせて、
馬車や荷馬車に乗り込んでは、
(アタシって、罪なオンナねェ♡)
と、自分の天性の美貌と魔性に、
ふぅ、と、ため息をつき、
その美貌と魔性に誘われて、
襲いかかってくる男を、投げ飛ばす度、
(オトコってホント、バカねェ…)
と、「ばーか」と、ペロリと舌を出した。
そもそも、女でなければ、そういう目で見られることはなく、
そもそも、女でなければ、そんな目に遭うことはない………。
そもそも、女になる、必要がなければ─────。
そもそも、を、考える代わりに、か、
そもそも、を、考えない代わり、か、
康琳は、食後のデザートのことを考えた。
そもそも、午の刻。お腹は空いていた。
「もうそこが、西の入口だ。市街地で、何か食べよう。
なんでも好きなものを、好きなだけ食べるといい。
若い娘が、遠慮なんかするもんじゃない」
美人で可愛くて若くて女だと、
食事にも困らないことは、すぐに分かった。
「何が食べたい?」
「肉入り饅頭」
「肉入り饅頭か。
……もっと、可愛らしい少女らしく、可愛らしいものを
好き好んで、口にすると思ったが。桃饅頭とか……」
男の中で芽生えた違和感を覚えつつ、おやと少女の顔を見た。
「ふふっ、プルプルの肉入り饅頭は、嫌い?」
康琳は、うっすらと笑みを浮かべ、
舌なめずりをし、艶めかしい女の顔をした。
男は、ブルッと体を震わせた。
続