【現代編】☆結婚相談所遊戯☆
□1☆結婚相談所遊戯☆
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☆結婚相談所遊戯☆
File 1
白いブラウスに
黒のツーピース。
全てを無個性にする装いでも、
隠し切れない、天性の色気。
夜会巻きにした長い髪。
タレ目がちの目元に、泣きボクロ。
アイラインとマスカラで、魅惑が増す。
ピンク色の唇が、光の粒を含む。
「ちょっと、アナタッ!?」
「はい♡ 新入社員の『妃 柳那』でーす♡
どうぞよろしくお願い致しまーす♡」
「知ってるわよッ!
新入社員の中で、一番、
美人で、可愛くて、目立ってたからっ」
髪を、後ろにひとつにひっつめ、
フォーマルな化粧に、
フォーマルな眼鏡をかけた
先輩社員が、柳那を、呼ぶ。
「ちょっと、アナタッ!!」
「はい♡なんでしょう?先輩♡」
「『はい♡なんでしょう?先輩♡』じゃないわよ!
百歩譲って、『はい♡なんでしょう?先輩♡』は、いいとして、
そんなカッコで、事務所をうろつくんじゃないわよ!
花が舞ってる、と、思われるでしょうがッ!
クライアント様より目立つカッコして、
どーすんのよッ!
わたしたちは、黒子なのっ!クロコ!
巻き髪禁止!グロス禁止!
結婚指輪以外の、アクセサリーの類、禁止!
あなた、結婚は?」
「いえ……。あ♡でも、同せ……」
「じゃ、アクセサリー類、一切禁止!」
一切、アクセサリーをしていない指で、
柳那の、右耳と左指を、交互に指す。
慌てて、就職祝いに彼氏に買ってもらった、
ダイヤとアメジストのハート型のピアスをはずす。
「ここは、結婚相談所なの!
人生の一大イベントである結婚の相談をする所なの!
クライアント様が、運命の人と巡り合って、
人生が、鮮やかに花開く、お手伝いをする場なの!
終日、あなたが、咲き誇ってどうするのよ!?
主役は、あくまで、クライアント様!
わたしたちは、クロコ!
以後、その自覚を持った装いを心がけるように。
じゃなきゃ、クビよ」
(怒られちゃった……)
─────チン
ベルが鳴った。
ウエディングベルを、夢見る者が、鳴らす、ベル。
(ここは、名誉挽回♡ 汚名返上♡
可愛い子には旅をさせよ♡
真っ先に行動しないとね、新入社員は♡)
ぱっ、と、白紙のカウンセリングシートを挟んだ、
緋色の革製のクリップボードを手に取ると、
いざ、事務所と、結婚相談所の各ブースをつなぐ、
白い扉へ。
「ちょっと、アナタッ!!」
「はい♡なんでしょう?先輩♡」
「百歩譲って、『はい♡なんでしょう?先輩♡』は、いいとして、
どこ行くつもりよ!?」
「え?だから、新規のクライアント様のお出迎えを。
それから、カウンセリングと、
ご希望相手のマッチングと、
ご成婚までのコーチングを……」
「そんなカッコで、
結婚相談所の各ブースをうろつくんじゃないわよ!
蝶が舞ってる、と、思われるでしょうがッ!」
ぱっ、と、柳那の手から、
白紙のカウンセリングシートを挟んだ、
緋色の革製のクリップボードを奪う、先輩社員。
代わりに、どんっ、と、書類の束を、押し付ける。
「あなたは今日一日、事務仕事よ。
はい、コレ、全部。
ファイリングして。左閉じだからね。
印鑑は、ちょっと、左に傾けて押しなさいよ。
終わらなかったら、休憩、3便だからね」
(怒られちゃった……)
☆
「どうやった!?初出勤は!?」
同棲中の、ひとつ年下の彼氏が、恋人に、訊ねる。
「怒られたっ!」
「パワハラかッ!?」
「先輩が、一日中、人のこと、花よ蝶よって、
怒ってくンの」
「お、おー、それは、パワハラやな」
ピンクのリボン型のヘアバンド。
水色のパーカーに、
白いショートパンツの部屋着。
化粧を落とし、素顔に戻り、
すらり、と、伸びたおみ足をして、
彼氏の膝の上に座っている。
片手には、缶ビール。
恋人の缶ビールに、おつかれさん、と、
自分の缶ビールを、ぶつける。
ありがと、と、自分の缶ビールを、
彼氏の缶ビールに、当てる。
「天職だと思うんだけどなぁ、結婚相談所のお仕事」
続