☆月遊戯☆
□ 【※】第五章☆月遊戯☆
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☆月遊戯☆
第五章
「もう、ヤメテ。昼間のこと、謝るから。バカッ」
「謝ってないやん。全然」
脱兎の如く、寝台から、
抜け出そうとする、柳娟の細い足首を、
幻狼は、狩りの勢いのそれで掴むと、勢い余って、
柳娟は、寝台の上を、ころころと、転がった。
その腰を引き寄せ、引き戻し、
柳娟のモノに手を伸ばすと、
髪紐の結び目を軽く引っ張り、
できたその隙間に、人差し指を差し入れ、
髪紐の結び目を人差し指の腹の上に乗せると、
牙で、結び目を、ぷつり、と、噛み切った。
あっけなく、ぱらり、と、一本の紐に戻った、
藍色の髪紐を、床の下に落とすと、
根元から、指三本分の一点を押さえ、それを咥えた。
「アッ!ンッ、ン〜、ああ、、それ、いい、あン、、
イクッ、、ねェ、もう、イカせてェ、、ねェ、、アッ」
と、声を上げる。
『アッ!あっ、あっ、それあかん、、アッ、、ア〜、
あ、イクッ、もう、、ナァ、、もう、、なぁて、、アッ』
と、散々、女みたいな声を上げさせられた、あの日。
『根元から、指三本分の一点を、
こう、押えられていると、射精出来ないのよ♡』
と、幻狼に教えたのは、柳娟だった。
妓楼でも、そうないほどに、
散々、射精を我慢させられ、
散々、焦らされ、焦がされ、
散々、女みたいな声を上げさせられた、あの夜。
(殺したろか)
と、思ったが、
あー……、もお、後戻り出来んのやろなー……、と、
思うより、感じた。
幻狼は、柳娟のモノから、口をはなした。
その一点を、押さえた指は、はなさない。
「浮気のこと、怒ったの?」
「したきゃ、すりゃえーやん。オレの知ってるヤツと」
「冗談に決まってるでしょ。冗談よ。
あんた、冗談、三度の飯より、好きじゃない」
「三度、飯、食うてきた、後やからな」
「じゃあ、おもち も、お預けね」
ひとつ年上の、口達者。
楽しい会話も、響く台詞も、真面目な話も、
ぎゃあぎゃあ、と、百、喋ることも、
一、の、返しも出来る。
ひとつ年上の、早生まれ。
膝に頭を乗せ甘えるのを、
膝に頭を乗せられ甘えられるのも、
どちらも心地よく、居心地がよかった。
ひとつ年上の、床上手。
なんでも知っている。なんでもしてくれる。
それは、身体を、絶対条件的に満たす半面、
心身を、条件反射的に、ざわつかせもした。
恋に一途なようで、色に奔放で、ようわからん。
白か黒。赤か青。遊戯か悪戯。
一本、真っ直ぐに、
信じて引いた線の筋は、信じ貫き通し抜く、
ハッキリとした、世界で生きてきた男の心を、
ようわからんもの、は、光も影もなく、照らし、
光も影もあって、落とした。
ひとつ年上の、いつも頭上にある月。
腕の中で従順にしているかと思ったら、
─────昼間の、これだ。
(恋に一途なようで、色に奔放で、ようわからん)
幻狼は、そう、焦らし、焦がし、焦がれ込んだ、
心の声を、口にしなかった。
柳娟は、もう、口では何を言っても無駄と、
幻狼の唇を吸う。
いつもなら、こんなことしないが、
幻狼は、柳娟の唇からはなれ、
腕を掴んで、後ろを向かせ、
背中を押して、四つん這いにさせ、
一点を、押さえた指ははなさずに、
一気に、そこに腰を落とした。
「ンーーーーーーーーーーーッ」
声にならない声を上げる柳娟。
幻狼は、腰を振り、腰を突き、
腰を打ち付けると、黙って、射精した。
「中に、出してもうたわ。よかったか?」
「…ン、…ン、」
声にならない声を出す柳娟。
こくこく、と、シーツに顔を擦り付け、頷く。
幻狼は、柳娟の腕を掴んで、上半身を起こした。
膝立ちになる柳娟。
幻狼が、後ろから抱きしめるように、その体に腕を回す。
柳娟が、その腕を、抱きしめるように、掴む。
「オレの気持ち、わかったか?」
一点を、押さえていた指をはなした。
「………」
もう、声にならない。
黙って、吐き出す。
それは、幻狼の右手の指の間をすり抜け、床を汚し、
幻狼の手で受け切れなかった分は、溢れこぼれ落ち、
白いシーツを、白く汚した。
かくん、と、全身の力が抜け、
崩れ落ちそうになったのを
幻狼が、しっかりと、その腕で支える。
幻狼のその腕を、掴んでいた白い腕だけが、
するり、と、はなれ、
失神してしまったのか、
だらり、と、垂れ下がる。
汚れていないシーツの上に、その体を寝かせた。
色を、しばし消すように、閉じられた目の両目頭に、
透明の涙の粒が、流れ落ちずに留まっている。
「ごめんなさい……」
幻狼の耳に、その声で、届く。
「……すまん」
幻狼の声が、柳娟の耳に届いたかは、
神か、月ばかりが知る限り。
第五章<完>