☆月遊戯☆
□第二章☆月遊戯☆
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☆月遊戯☆
第二章
子の刻。
「柳宿」
翼宿は、柳宿の部屋の前にいた。
「昼間の、コトやけど」
扉の外から、小声で中に話しかける。
「やっぱァ、ピータンと桃饅頭で、する顔に、違いなんてナイなァ」
翼宿は言った。
「まだ、怒っとるん?」
翼宿は訊ねる。
「謝るから、ここ、開けてェや」
翼宿は言う。
「なァ、開けてェな」
もう一度、言う。
「このままじゃ、寝られへん」
返事はない。
「寝とんのか?起きてるやろッ!?寝てるなら、寝てますー、ゆーてや!?」
─────返事はない。
翼宿は、しばし迷った挙句、意を決し、その部屋の扉を押してみた。
が、鍵が、かかっている。
「柳宿ーーーーー!!柳宿サーーーーーン!!柳宿様ーーーーー!!」
扉の前で小声で叫ぶ。が、返事はない。
「開けたってや」
翼宿は、きょろきょろと、あたりを見回す。
「こんなとこ、誰かに、見られたらアカン」
ガサッ─────………
「誰やッ!?」
「ニャーン」
「なんや、ネコか、びっくりさせよって、、
はっ、あのネコ、誰かに喋らんやろな」
「アタシは別にかまわないけど」
中から、柳宿の声がする。
「別に、誰に知られよーと。
誰かに隠しておきたい関係なら、それでかまわないけど。
それで」
翼宿は、しばらく待ってみた。
しかし、扉は再び沈黙し、永遠に開きそうになかった。
翼宿は、しばらく考えた。
夜の静寂だけが、宮廷の廊下に響いていた。
「柳娟」
その名で呼ぶ。
翼宿は、また、しばらく待ってみた。
しばし、無音が続いたのち、
かちゃん、と、
中から鍵の外れる音がした。
その音は、夜の静寂だけだった宮廷の廊下に、
一際大きく響いたように感じられた。
キィ、と、もう永遠に開かないと思われていた扉が開き、
あと5分遅ければ、
三つ編みをほどき、髪をとき、寝てしまっていたであろう、
丈の短い寝巻姿の柳娟が、もう少し眠そうな目をして、
幻狼を部屋の中へ招き入れた。
第二章<完>