☆月遊戯☆

□第一章☆月遊戯☆
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☆月遊戯☆


第一章

あそこに見えるのは、女のナリした、朱雀七星士のひとり。

なにやら、朱雀の巫女と、ニ、三言、言葉を交わすと、
可笑しそうに身をよじり、手を振って別れた。

それから、他の誰かを探すように、
きょろきょろ、と、辺りを見渡し、
そこに、男の姿を認めると、
ぴょんぴょん、と、飛び跳ねるようして、こちらに向かってくる。
三つ編みの髪も、一緒に跳ねる。

「美朱がね、ツキにはウサギがいて、
満月の夜には、地上におもちを売りにくるから、買いに行かなきゃ、って」

ニコニコと、タレ目がちな目を細め、
百日紅の木の傍にいた男に話しかける。

「柳宿もいる?って訊くから、そうね、ひとつ、お願いしようかしら、って言ったら、
ひとつ、化粧箱に入った、ふたつ入りなんですって。ね、おかしいでしょお?」

その愛嬌に、つい、つられそうになるが、男は、くすり、ともしない。
代わりに、ぷいっ、と、顔を背け、明後日の方向へ歩き出す。

「あらら」

小走りで、その後を追う。

「ねェ、なんでさっきから、なんも言ってくれないのぉ?ずっと、恐いカオしてェ」

男は、ぴたり、と、立ち止まり、その目で、見下ろすようにして、その顔を見た。

「狼に睨まれたウサギの気分よ」

上目遣いに、男の顔を見る。

「わからんか?」

「………」

いつもなら、なんだかんだ言いつつ、結局、許してしまうその仕草も、
いつもなら、なんだかんだ言われつつ、
結局、許されてしまうことがわかっているその仕草を、やめないことが、逆撫でた。

男は、三白眼を釣り上げ、言った。

「お前、さっき、中華屋で、料理、運んできよった店員に、色目、使ったやろ?」

「使ってない」

「使ったやろ。なんで、嘘つくねん」

「ついてない」

「サービスで、ピータン、持ってきてくれたから、
ちょっと、アイソ、振りまいただけでしょ。美朱もいたし」

「お前が色目使うから、持ってきたんやろ」

「違う。持ってきてくれたから、愛想、振りまいたの」

「お前、そんな、ピータン、好き、ちゃうやん」

「あら、嫌いでもないわよ」

「お前は、ピータン、サービスされた時と、
桃饅頭、サービスされた時で、同じ顔、するんか?」

「ピータンより、桃饅頭の方がよかった?」

「そんな話、してるんと、ちゃうねん」

「じゃあ、どんな顔、すればよかったの?
ピータン、サービスされちゃった時は」

「もう、ええ」

今度は、男はもう、振り向かなかった。

(あらら。子供みたい)

そう思って、もう、追わなかった。

そんな時、男の方から、話しかけてこない限り、
自分からは、話しかけない。目も合わさない。
夕食の席で、醤油を取って欲しそうにしてる時でも、取ってあげない。
これは、世話好きな者としては、ヤキモキとした心持ちになるが、
ここは、見えて見えぬふりをして、頑として、世話を焼いてあげない。
ひたすら、この男以外の者の世話を焼く。

れっきとした男だが、
見た目も心も言葉遣いも女だから許される、悪魔の所業だろう。


第一章<完>


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