☆ご指名遊戯☆【翼宿side】

□G☆ご指定遊戯☆
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☆ご指名遊戯☆

G

「寒くない?」

仰向けになった翼宿にリンリンが訊ねる。

「ああ」

なんとなく目のやり場に困り、
赤い部屋飾りの下がる天井を、翼宿は真っ直ぐ見つめた。

リンリンは翼宿の足元に移動すると、足裏に香油をぬる。

(こいつ、アイツとちゃうんか?)

そして、ぐいっ、と、足の裏を押す。

(うまいな)

絶妙な力加減で、足裏のツボを押してゆく。

(気持ちええな)

あんなに、見たかった顔なのに、
いざとなると勇気がなく、
翼宿は、赤い部屋飾りの下がる天井を見つめたまま、訊ねる。

「リンリン」

「なあに」

「コッチ<紅南>の、生まれなん?」

「ううん。生まれは北の方」

「ふーん……」

リンリンは、加減しながら足裏にある頭のツボを押す。

「じゃ、雪、降るやろ」

「うん」

リンリンは頷く。

「お客サン、雪は嫌い?」

「……あんま、好きちゃうかな」

「そう」

嘘を吐かないモノのいい方に、フフ、と、リンリンは笑う。

「寒いやろ」

「そうね。フフ」

赤い部屋飾りの下がる天井を見つめたままでいる翼宿の耳に、
既視感のある声でだけが届く。

「でも、イイコトもあるわよ?」

「どんな?」

「これ聞いたら、お客サン、雪、好きになってくれるかなぁ?」

「なんや?」

「これ聞いたら、お客サン、カラオケの十八番、
サザンから雪国になっちゃうかも」

「上げるのぉ」

「雪見酒が出来る♡」

ぐっ、と、肝臓のツボを押しながら言う。

「それくらいかなー」

「推し、弱いのぉ」

フッ、と、鼻で笑いながら、翼宿が言う。

「ちょっと、雪、好きになってくれたぁ?」

「ちょっとだけな」

「あはは、よかったぁ♡」


じんわりと、足裏が温まり、うとうと、と、する翼宿。

(あー…、もー、えーかー。コイツが誰でも…)


リンリンは、足裏から足の甲、くるぶし周辺と、
丁寧かつ的確に、香油をぬってゆく。

そして、足首、ひざ下、ひざ周辺と、
左右交互に、香油をぬり広げる。

それから、横に移動し、右太ももに、
手を伸ばそうとしたリンリンと、ぱちり、と、目が合う翼宿。

赤地に金の鳳凰が刺繍された、ノースリーブの丈の短いチャイナドレス。
スリットからのぞく、すらりと伸びたおみ足。
細い腰に、主張しない胸。

三つ編みを、右耳の後ろでひとつにまとめたお団子に、
あしらった赤い花飾り。

親しみやすくも、気品ある雰囲気で、
薄明かりの部屋で、にこり、と、微笑む。

左目の下には泣きボクロ。

なんとなく、目のやり場に困り、翼宿は目を閉じた。


リンリンは、翼宿が腰に巻いているタオルに
香油がつかないようにたくし上げ、
香油をつけた両手の平を、太ももの上にすべらせる。

温かく、やわらかく、すべすべとした手が、
太ももの上を行き来する。

右が終わると、左に移動し、
左太ももにも同じことをして、
左右終わると、たくし上げたタオルを、元のように下げた。

リンリンは、施術台に上がった。
そして、翼宿が腰に巻いたタオルの上に座る。

香油を手に、腹部、そして、胸部を、最初は、手の平で。
次第に、指の腹で。それから、指の先で。
最後は、指の先が、触れるか触れないかで、撫でる。

一巡したところで、
覆いかぶさるようにして、上体を倒すリンリン。
翼宿の左肩を、まとめ髪の後れ毛がくすぐる。

「……寒くないですか?お部屋」

耳元で、囁くように、リンリンが問う。

「ああ……」

目を閉じたまま、翼宿は答える。


リンリンは、上体を起こし、
少し下がって、翼宿のひざの上あたりに、
やや腰を浮かせて座り直し、
翼宿が腰に巻いているタオルの、
折り返しの部分に指をかけた。

ぱさり、と、音がして、
はだけてしまわぬよう、翼宿が、左脇腹のあたりで、
しっかりと、折り返し、巻いていたタオルがはだける。

「隔体女神交法のマッサージ、していきますね」

それは、乾いた軽い僅かな音だったが、翼宿には聞こえた。



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