☆ご指名遊戯☆【翼宿side】

□D☆ご指名遊戯☆
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☆ご指名遊戯☆

D

「少々お待ちください」

店長が待合室を出てゆき、
翼宿は、手持ち無沙汰に、待合室の中を見渡した。

今、座っているこの椅子と、茉莉花茶の置かれた机以外、
さしたる調度品はないが、この黒い革張りの椅子、座り心地は悪くない。

簡素なのか豪奢なのか、
壁際には、ホンモンか造花か、花が飾られ、
壁には、ホンモンか贋作か、絵がかかり、
長い髪で、陰部を隠した女神が、海から誕生していた。

(俺、なにしとるんやろ)

翼宿は、氷が全てとけ、ほぼ水になった茉莉花茶を飲み干した。



「大変お待たせいたしました」

怪しい笑顔の男が、待合室に戻ってきた。

マッサージ嬢の準備が整ったのかと思い、

「おー」

と、椅子から腰を上げようとしたが、

「大変お待たせいたしました」

と、怪しい笑顔の男はまた言って、
両手で、まだ立ち上がることを制し、
受付と待合室とをつなぐ出入口とは別の、
緋色の幕の下りた出入口の横に立った。

「………」

翼宿は上げかけた腰を、再び椅子に沈めた。


「─────今宵、鐘の音が鳴り響く」


「それが告げるは、この世の終焉か、それとも祝福のそれか、はじまりか。
鐘の音を、隣国まで鳴り響き渡らせながら舞い降りた、天使」

「騒々しいわ」

「それは、運命か宿命か。ご褒美か試練か。
パンドラの箱か、つづら箱か、玉手箱か。

開けたが最後、それを知らなかった頃には戻れない。もう二度と。
知らなかったとは言わせないし、知らなかったでは済まされない。

なにがあっても返金不可」

「せやろな」

「生きていたら、まず手の届かない、背中に羽のあるタイプにして、

ご近所のオネイサンにいたら嬉しいタイプ♪
友達のオネイサンだったら嬉しいタイプ♪
よく行くコンビニの店員のオネイサンだったら嬉しいタイプ♪」

「奇跡やな」

「そんな、嬉しいオネイサンを、
今宵、90分、ひとりじめ♡この幸せ者♡果報者♡」

「………」

「それってキセキ」

「………」

「お待たせいたしましたっ☆

南風に吹かれ、豊かな髪をなびかせて、紅南の地に降り立った女神☆

風の旋律を口ずさみ、乙女爛漫に、紅南の地に舞い降りた天使☆

生命の息吹に、喜々と輝くタレ目がちな大きな瞳が眩しい、
父親が人間で、母親が天使と女神のハーフの、クオーター☆」

店長が、幕の下りた出入口横の紐に手をかける。

「今宵、鐘の音が鳴り響く」

「………」

「今宵、聴かせて、その音色」

「………」

「聴かせてよったら、聴かせてよ」

「えーからっ、はよ、その幕、めくらんかいッ!!」

キレる翼宿。

「血液型はたぶんB型。昨日の今日、生まれた女神♡琳琳チャンでーす♡」

店長が、出入口横の紐を引き、幕が上がる。



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