☆秘薬遊戯☆

□☆秘薬遊戯☆其ノ壱☆
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☆秘薬遊戯☆


─────其ノ壱─────


「オンナになれる薬!!??」

柳宿は頓狂な声を上げる。

(さすが、中国四千年!!!なんでも、アリねっ)

「左様」

薬売りの老師が頷く。

「頂くわっ!!」

「これこれ、まず、話を聞けい」

なんの説明も聞かず、代金を支払って、
いまにもそれを懐へ入れそうな勢いの、
女装姿の客人を老師は制し、言う。

「コレは、夢も見せるが、悪夢も見せる。
非常に、妖しく危うく儚いが、その効力は、まさに魔法」

「魔法って……。あっ!!まさかっ!!?

12時で、魔法はとけてしまうんじゃないでしょうねぇ!?」

「ほっほっほっ、そんなわけなかろう」

「そーよねぇ、おっほっほっ」

笑う老師につられ、意味もなく笑う柳宿。

アヤシイ老師の目の奥が、キラリと光る。

「このクスリは、元は、生贄に捧ぐ女の為に、作られた薬」

「生贄の??」

柳宿は小首をかしげ、老師に訊ねる。

「そうじゃ」

老師が頷く。

「どんなに、器量良し、色良し、技量良しの生贄であっても、
処女でなければ、生贄にはなれん。
生贄には、まだ、男を知らぬ、処女じゃなければならん。
太古の昔から、そう決まっておる。それが、生贄の条件じゃ。

しかし、この秘薬を使えば、
どんな、男慣れし、色慣れ、遊び慣れした女でも、
一日だけ、乙女を復活させることのできるのじゃ」


「ふーん。でもぉ」

と、柳宿。

「自ら生贄になりにいく、ジョシなんている?
どちらかというと、それこそ是が非でも、
生贄になりにいかないものなんじゃない?」

率直な疑問を老師にぶつける。

「生贄とはなにも、生贄それそのもののことを指すわけではない。
己の体の犠牲と引き換えに、まるで、魔の力に頼ったかの如し、
常人の精神では、到底成しえないことを成しえる者のこと。世の比喩じゃ」

老師、言わん。

「なるほどねぇ」

頷く、柳宿。

「で、どうしたら、その魔法はとけちゃうの?」

柳宿が問う。

「絶頂也」

「ゼッチョオ?」

「生贄が、肉体の快楽を覚え、溺れ、ふけってしまっては、意味を成さぬ。
それが、生贄の条件」

「─────つまり、気を、いかすってことね」

「肉の喜びを知った途端」

「元の体に逆戻りってわけね」

「左様」

「で、ここんとこ、はっきりさせときたんだけど、

コレ、オトコの体にも効くのぉ!!?」

「愚問じゃな」

「ほんとにぃ〜??」

「処女膜を復活させるのも、
男の肉体を女の肉体に作り替えるのも、
似たようなもんだからのう。ほっほっほっ」

「………」

納得できるような、出来ないような理屈を、
柳宿は、ごくり、と、飲み込む。

「要は────、イカなきゃいいワケよね?」

「ほ?」

「イカなきゃ、一生、オンナのカラダのままでいられるってことよね!?」

「うむ。理屈上は」

(よっしゃ〜〜〜〜〜☆)

「よっしゃ〜〜〜〜〜☆」

ガッツポーズをし、思わず心の声がもれてしまう。

「処女の体で、気をいかすのも難しいが、
一度、それを覚えたカラダで、気をいかせないのもまた、難儀」

老師が薬の瓶を手に取る。

「しかも、女の快楽は、男よりも強烈。男よりも、貪欲。
満たされないのも、悪夢ぞな」

老師が訊ねる。

「どうする、お主。試すか。試さぬか」

「それこそ、愚問よ」

今度は、柳宿の目の奥が、キラリと光る。


老師は、薬を一粒、瓶から取り出し、黒い紙で包んで、
女装姿の客人の、女の手と何ら変わりない、
白い手の平の上にやる。

「一粒だけ?十粒くらい頂戴よ」

「貴様は、何回もイクこと前提か。
この薬は、一度使えば、抗体ができ、
もう二度と、効くことはない」

「処女は、一度きりってことね」

「そうじゃ」

「あ!」

黒い紙の包みを手に、柳宿が声を上げる。

「なんじゃ」

「副作用とかはないでしょうねぇ!?最悪、死ぬとか!?」

「まあ、気をいかせて、薬が切れた後は、
急激な眠気に襲わるが、寝れば治る。死にはせん」

「ふぅん」

「それよりも─────」

「な、なによ?」

ぎくりと、肩に力が入る。

「これは、生贄じゃ。捧げる相手を見誤るんじゃないぞ」

なぁんだ、そんなこと、と、構えた肩の力をぬく。

(捧げる相手なんて、それこそ、決まってるじゃない♡)

心の中で、そう呟き、ニヤリ、と、不敵な笑みを浮かべる。



「柳宿っ」

ぎくっ

慌てて、黒い紙の包みを懐にしまう。

老師はもう、先程までいなかった、
別の客の相手を始めていた。

振り返ると、鬼宿が、ほくほく顔でこちらに駆け寄ってくる。

「たまちゃん。もういいの?」

「ああ、美朱にもらった異国の食べ物が、金1両にもなったぜ☆」

「そー。ハトがキジになったの」

「お前、人の話、聞いてないだろ」

「ささ、早く、帰りましょ♪」

「そーだな。腹もへったし」

「そーねぇ。もう夏ねぇ」

「お前、全然人の話、聞いてねーな」

街で出稼ぎをする鬼宿についてきた柳宿は、
鬼宿の腕にしがみつき、
ぐいぐいと引っ張るようにして、宮殿まで戻る。



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