☆短編小説☆

□☆お飯事遊戯(おままごとゆうぎ)☆
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【4】


ピンク色のピクニックシートの上から降りた星宿様。

「次は、上り棒で勝負だ!」

「望むところなのだ!」

井宿がそれに続く。

「あなた、今日、お帰りは?」

「ん?ああ、遅くなる。
起きて待ってなくてよい。先に寝ててよい」

「は〜い♡」

いいお返事をする柳宿。

「ばぶちゃんも♡パパに、行ってらっしゃい、しましょ〜ねぇ♡」

「………」

無言でいる翼宿の手を取り、
そのまま、ぶんぶん、と、力ずくで、手を振らせ、
行ってらっしゃい、させる柳宿。

強制的に、ぶんぶん、と、手を振らされ、
行ってらっしゃい、させられる翼宿。


父親の姿が上り棒の方へと消えると、子供の手を開放し、
倒れたプラスチックのコップを起こし、
投げ出された骨型のおもちゃは拾い上げ、
白も黒もなく転がったオセロの石を拾い集め、
お片付けをしてゆく。
ルンルンルン〜♪と、鼻歌交じりに。

みるみるうちに、ピンク色の絨毯に、
ピンク色のダイニングセットの我が家は元通り。
仕上げに、ハルジオンの花を一輪、飾る。


「……お前、それでええんか?」

なにが?と、
左目の下に黒子のある、タレ目がちな目をさせる。

「リコンするなら、早い方がええで。

って、一番上のネーチャンがゆうとったで」

それが?と、
左目の下に黒子のある、タレ目がちな目をさせる。
そして、慈悲深く、愛情深く、思慮深い、
瞳と声と微笑みで、言う。

「離婚なんてしないもーん♡
汝、病める時も健やかなる時も、いかなる時も、これを愛し、
尽くし、添い遂げるって、神に誓ったんですもの、ア・タ・シ♡
夫婦ですもの♡死が二人を分かち合っても♡」

「ふ〜ん。あ、カマキリ、交尾しとる」

「あ、もうっ、ダーリンたら、忘れてるッ♡愛妻弁当ッ♡



って、誰よッ!?あのオンナはっ!!?」

柳宿は、ピンク色のピクニックシートの上から、
上り棒の下に広げられた、桜色のピクニックの横で、
なわとび をしている星宿様の隣で、
一緒に なわとび をしている、オンナのことを見た。

「なんで、上り棒しないで、なわとび してンのよ!?
だいたい、僧侶は、どこ行ったのよッ!?



って、誰よッ!?あのオンナはっ!!?」

「たしかぁ、もも組のぉ……」

「すみれ組でもないのにッ、彩貴帝クンとっ、親しいことっ!



って、誰よッ!?あのオンナはっ!!?」

「たしかぁ、美朱とかゆう……」

カマキリの交尾を見ながら言う翼宿。

「美朱……」

わなわな、と、肩を震わせる柳宿。

「アタシなんて、この学校法人朱雀幼稚園に入って1年近く、
まだ、彩貴帝クンと、あやとり もしたことないのに〜〜〜ッ」

「本宅へ帰ってったな」

「彩貴帝クンも、彩貴帝クンだわっ!
アタシの方が、かわいくて美人で、
料理上手で床上手なのに!!
あんなちっぽけな、もも組の小娘の何がいーの!?」

「まあ、お前が男やからやろ。トコジョーズってなんや?」

キーーーッ、と、声にならない乙女の心の声を上げる柳宿。

「なあなあ、見てみぃ!カマキリ、交尾しとるでっ!
なぁ!?なぁって!?」

「カマキリの交尾は、どうだっていーのよッ!
もも組の美朱っ!絶っ対っ、許さないんだから〜〜〜〜ッッ!!」

柳宿は、死より前に、
二人を分かち合いそうな恋敵のことを、
ギラリ、と、睨み付けた。

美朱は、ぶるり、と、ひとつ、身震いすると、
キョロキョロ、と、あたりを見渡した後、
ぽりぽり、と、不思議そうな顔で、おだんご頭をかいた。


☆お飯事遊戯(おままごとゆうぎ)☆おわり☆


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