恋に落ちる音がした

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名前は切島の後に続こうと、店内に残った二人に礼を述べる。そして爆豪に借りた上着を脱いで返そうと、服から腕を抜いたとき、爆豪がそれを制した。

「着とけ。服、見られたくねーんだろ」

服を引き裂かれた姿を見られたくない思いで警察への通報も断った名前だったが、その思いを彼が汲み取ってくれているとは思わず呆気にとられる。

「んだよ」

人相の悪い爆豪に睨まれハッとする。脱ぎかけた上着に再度腕を通しながら名前は礼を述べた。

「ありがとうございます。じゃあ今度、返しますね」

「俺が居なかったら店に預けとけ」

気を遣ってくれての発言なのだろうが、別に私に会いたいわけではない、とも言われているようで、名前は少し面食らう。初対面なのだから仕方ないのだけれど……

少し距離を置かれたような発言に戸惑っていると、名前を呼ぶ切島の声が聞こえた。

「名前ちゃーん。もうタクシー来てるぜー」

「ぁ、今行きます!」

そう言って振り返った時には既に爆豪は背中を向けて店の奥へと戻って行くところで、その側では上鳴が手を振ってくれている。

上鳴に手を振って応え、後ろ髪を引かれながらも店の扉を閉める。
階段を上って表へ出ると、切島が人懐こい笑顔で出迎えてくれた。

「どうぞ」

ドアマンの様な姿が可笑しくて笑うと、切島は白い歯を見せて笑った。

「あれ、やっぱ似合わねーかな」

戯ける切島は優しく目を細めた。

「気をつけて帰って」

見えなくなるまで車を見送ってくれる切島に心の中で感謝を述べる。

ホストは女性を喰いものにする人達だと思っていたーー
考えを改めなければ、そう考えながらタクシーの座席に深く座り直したとき、胸ポケットに違和感を感じた。

(名刺入れが入ってる……)

「って、えぇぇ!?」

名刺はホストにとって大事なものではないのだろうか。驚いて中を見ると、中には爆豪の名刺は1枚も無く、他人名義の名刺ばかりであった。

(代表取締役とかCEOとか、企業の偉いてばかりじゃない)

これはおそらく爆豪が貰った名刺ばかりを入れている名刺入れなのだろう。
中身が爆豪の名刺であったら急いで引き返すところだが、これなら急を要することはないはずだ。
早めに返しに行けば問題ないだろうとホッとする。しかしーー

(ホストって男性の相手もするの?)

見ては行けないと思いつつも、つい名刺の人物が気になる名前であった。


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