獄都事変

□通学
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田噛の場合



JRの扉が閉まると同時に車両へと滑り込む苗字。

(危なかった、もう少しで乗り遅れるとこだった)

安堵して息を吐いた苗字が座る席を探して辺りを見回すと、見慣れた制服が見えた。

(田噛、かな?)

近づいていくと、視線を上げた男が口を開いた。

「苗字か。何してんだ?」

「ぇっ⁉いや、田噛に似てる人が居るなーと思って……」

顔を盗み見ようと近づいた事が何だか後ろめたくて視線を逸らすと田噛が不思議そうにして言った。

「そうじゃねぇだろ。何で立ってんだって言ってんだよ」

辺りの席は結構空いていたので、立っているのは確かに不自然であった。どこに座るべきかと目を走らせていると田噛が自分の横の席を叩いて言った。

「座れよ」

「あ、どうも……」

田噛とは同じクラスだったが、あまり親しく話したことはない。偶に木舌を通じて話すぐらい、そんな関係性だったため、隣の席は何だか気を遣う。

「ぁ、あのさ」

今日提出の宿題の話でもしよう、そう思って口を開くと、それを田噛が制した。

「俺は寝るから、着いたら起こせ」

「ぁ、はい」

返事をしてから後悔した。何故こいつは少し偉そうなのだろう。そして何故私は敬語なのだろう。くっ、と下を向いて悔しがっていると、右肩にずしりとした重みを感じた。

「ぇっ、と、田噛?」

肩にもたれかかっている田噛の髪が苗字の顔を擽る。恥ずかしさで顔を紅潮させた苗字が少し身じろぎをしようと肩を揺すると、田噛が眠そうな掠れた声でそれを制した。

「動くな」

「……はい」










「おはよう、苗字」

学校の校門前で会ったのは、隣のクラスの佐疫。

「ぁ、はょ。佐疫」

佐疫は怪訝そうに苗字の顔を覗き込む。

「どうかしたの?何だか嬉しそうだけど、顔は疲れてるね」

「……色々大変だったの」







【肩に寄りかかられて照れる】
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