獄都事変
□通学
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木舌の場合
通学中、苗字は原付に乗った人に話掛けられた。
「苗字、おはよう」
学校前の交差点で信号待ちをしていた苗字は、振り向いて男を凝視する。
「木舌……?」
ヘルメットから覗く顔は、恐らく木舌なのだろう。ニコニコしている。
「正解。先、学校行ってるね」
木舌はそう言うと、青信号になった道路を直進して学校に入って行った。
「木舌、バイク通学だったんだねー」
教室に入ると、隣の席の木舌に声をかける。
「あぁ、この前原付の免許を取得してね。最近通学方法を原付に変えたばかりさ」
苗字たちの通う学校は原付での登校が認められている。
「へぇー。原付って怖くない?」
机に頬杖をついて木舌を覗き込むと、木舌は頬をかいて言った。
「まぁ車が脇を通るからね。でも慣れたらそんなにだよ」
「そっか。私も原付乗ってみたいな」
椅子の背に持たれて教室の天井を見上げると、後ろの席の田噛が視界に入る。
「おい。あんまりこっちに乗り出すな、邪魔。それからバイクはやめとけ。苗字は絶対事故るだろ」
田噛はそう言って、読んでいた本に視線を戻した。
「……あのねぇ」
青筋を浮かべた苗字が田噛に反論しようとすると、木舌が朗らかに笑って言った。
「今は無理だけどさ」
しばらくしたら二人乗り出来るようになるから、その時は後ろに乗せてあげるよ。
【原付で二人乗りの約束をする】