獄都事変
□Marry Christmas
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今日は12月25日。
現世は所謂クリスマスで、子供たちはサンタからのプレゼントに浮かれ、恋人達は永遠の愛を誓い合う。
それとは対照的に、私は朝から部屋のベッドに寝転がり、毛布に頬を寄せて部屋の片隅を見つめていた。
「こんな日に休みなんて辛すぎる……」
昨日、斬島と共に任務に就いた苗字は肋角の元を訪れて任務の報告をしていた。すると二人は肋角から急遽休みを言い渡されたのである。
苗字は、現世へ遊びに行かないかと斬島を誘おうとした。だが、
「肋角さんに体調を心配されてしまうとはまだまだだな。明日は一日鍛錬を行うか。苗字、鍛錬に付き合ってくれないか」
「ぇ?あ、あぁ。うん。まぁ……時間があったらね」
遊びに行こう、なんて言えなくなってしまったのだ。
斬島の真面目な性格が、今は只々恨めしい。
「はあぁ」
溢れる溜息の理由を聞いてくれる者はおらず、それがまた哀しくなってくる。
佐疫が居たら優しく話を聞いてくれただろう。谷裂が居たら斬島の鍛錬の相手をしてくれただろう。
何でこんな日に限って誰も居ないのだ。
コンコン
「苗字、居るか」
斬島の声が扉越しに聞こえる。
いつもならとっくに朝食を食べている時間だから起こしに来てくれたのかもしれない。まさか朝から鍛錬なんて言わないだろう。
「入っていいよ」
だらしないと思われたら嫌なので、髪を手櫛で梳かしながら身体を起こす。
「入るぞ。……体調でも悪いのか?」
斬島はまだ寝巻姿でいる私を見て、体調が優れないと思ったらしい。
斬島のせいで不貞腐れていた、とは言えない。
「いや、大丈夫」
斬島は伺うような視線を真っ直ぐにこちらへ向けていた。
「ねぇ、斬島。ちょっとそこ座って」
苗字がベッドを叩いてお願いすると、斬島は指示通りベッドへ腰をかける。
「今日、クリスマスなんだけど、どんな日か知ってる?」
たわいも無い話をして元気を取り戻そう、そう思った。
「確かそんなことを佐疫が言っていたな。現世の祭のようなものか?」
「そう、そんなところ。聖ニコラウスが恵まれない娘達に施しをしたことが由来でね、子供達がプレゼントを貰える日なの」
「ふむ」
斬島が真面目に聞いているこの光景が少し面白い。
「地獄に住んでるとはいえ、私達にも何か褒美があったって良いと思うんだけど」
「お前はもう子供ではないからプレゼントは貰えないんじゃないか?」
斬島が真面目な顔をして言う。
「現世では、大人でも恋人同士だったらプレゼント交換をするんだよ」
「そうか。なら苗字は何が欲しいんだ」
少しの間、斬島の天然さ加減に呆れてものを申せなかった。
一度は腹に収まった溜息が再び押し寄せてくる。恋人同士、といった事を全く意に介していない。
「何か欲しい物があるんだろう?」
こちらの気も知らずによくもまあと、少し腹立たしくさえ思う。ちょっと困らせてしまえ。
「あるけど……くれるの?」
「俺に準備出来るものなら用意しよう」
クリスマスに強請る女と、それに応えようとする男。今の雰囲気は中々良い感じではないだろうか。意地悪をしようとしている自分が酷く醜く感じるが、この際だ言ってしまえ。
「……斬島が欲しい」
どうだ、言ってやった!困ってしまえ、斬島。
「……すまない。俺は一人しかいないから苗字にはやれない」
少し申し訳なさそうに斬島が言った。
……言わなきゃ良かった。斬島の受けたダメージよりも、私の受けたダメージの方が遥かに大きいではないか。少し考えれば分かった事なのに。
そうか、佐疫が言っていた「悪い子はプレゼントを貰えない」とはこういうことなんだ。
なんだかとても哀しくなってきた。
あぁ、目頭が熱い。
「そうだよね、ごめん」
声は消え入る寸前で。自分が引き留めたとはいえ、斬島、早く部屋から出て行ってくれないだろうか。もうすぐ涙が溢れ落ちる。
「だが、お前と共に歩んでいくことぐらいは出来るだろう。それじゃ駄目か?」
斬島の衝撃発言に涙がフライングして溢れ落ちた。
「……本気で言ってるの?」
「あぁ」
どうやら地獄では悪い子でもプレゼントは貰えるらしい。
「それで、俺は苗字からプレゼントを貰えるんだろうか」
斬島の真意が分からず、溢れる涙もそのままに顔を上げる。
Marry Christmas
「愛をあげるよ」
真意なんて聞かなくても、彼の真っ赤な耳が答えを告げた。