僕のヒーローアカデミア

□正義のミカタ
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「あ、名前ちゃん来てたんだね」

交番の入口から聞こえた声の主を確認しようと名前が振り返ると、制帽を脱いで「暑かったー」と顔を仰ぐ先輩警察官の通形ミリオが居た。

「巡回お疲れ様でした」

緑谷は先輩警察官の帰りに立ち上がって出迎える。
何だかんだ緑谷も体育会系の仲間入りをしていることが内心面白い。

(昔はあんなにひょろひょろだったのにな)

今や2人共、学生の時より筋肉が付いて一回りぐらい大きい。本当に男の人になってしまった。

「じゃあ私帰るね。お巡りさんの仕事の邪魔しちゃ悪いし」

緑谷に手を振って別れを告げると、隣に立っていた通形が緑谷に向かって「君もお巡りさんなのにね」と言うのが聞こえた。






「かっちゃん今日は居ないのかぁ」

名前の職場から30分ほどの位置にあるその交番は、繁華街にも近く、爆豪はいつも忙しそうにしていて不在のことも多かった。

爆豪に逢えない寂しさが募る一方、名前は恋敵への嫉妬も募らせていた。

以前、交番から出てきたばかりの女子高生とすれ違った際、女の子が爆豪のことを格好良いと話しているのを耳にした。
凶悪な顔をしてはいるが、制服に身を包んだ若い正義のミカタは女子人気が高いらしい。

高校生に何を嫉妬しているのか、そう思いはしたが、緑谷の話を聞くにうかうかはしていられない状況なのだと悟った。

警察官は合コンへの誘いも多いらしい。女性からは人気の職業だ、若い爆豪なら尚更人気だろう。
名前の口からは何度目かの溜息が溢れた。

高校を卒業してもう3年が経つ。仕事にも慣れてきたし、成人もした。お酒だってもう飲める。
なのに依然幼馴染の2人と関係が変わっていないのは、喜ぶべきか否か。そろそろ爆豪との関係を見直した方が良いのかもしれない。こんなに長い間一緒に居て、恋愛関係に発展していないのならもう展望は望めない可能性の方が高い。

自分が好きになった幼馴染が緑谷だったら結果は違っていただろうか。そんな自分の甘い考えに嫌気が差して道端の小石を蹴る。

(出久の優しさにつけ込んじゃ駄目じゃないーー)

そう自分を叱咤した時、前方から男の声がした。

「いてっ。おい、出会い頭からなに石蹴飛ばしとんだ」

自分の蹴飛ばした石が誰かに当たるとは思っておらず、焦って名前が顔をあげるとそこには爆豪がいた。

「っっかっちゃん!」

思ってもない出会いに顔からは笑みが溢れる。

「おい、何喜んでやがる。痛いっつったのが聞こえなかったんかテメェは」

犬かお前は、とボヤく爆豪の横には見た事が無い警察官が並んでいる。

「爆豪、知り合いか?どうでもいいが言葉遣いは気を付けろよ。市民から苦情が来るぞ」

死んだ目をした男は、物言いから察するに爆豪の先輩警察官らしい。

「幼馴染なんで大丈夫です」

と名前が爆豪へ助け舟を出すと、先輩警察官は「ふーん、幼馴染ね」と興味がなさそうに言った。

「仕事帰りか?」と爆豪に聞かれ、先程まで交番に長居していたことを話すと、爆豪は少し怒った表情で名前に言った。

「最近物騒だから遅い時間にウロチョロしてんじゃねぇ」

その言葉を聞いた先輩警察官は「お前は」と言って爆豪の頭を上から押さえつけ、私達を追い抜いていく大学生風の男に「どうも」と言うように頭を下げた。
その後、爆豪を睨みつけると

「だから言葉遣いは気をつけろって言ってるだろ。お前の言葉遣いを聞いてるのは幼馴染だけじゃないんだから」

そう一言説教をした。
先輩警察官はどうやら爆豪のお守り役らしい。一方の爆豪は頭を下げさせられて悔しいのか、通り過ぎた男を睨み付けていた。通行人からすれば随分なとばっちりだ。

「かっちゃんがいつもお世話になってるみたいで」

と名前が先輩警察官に頭を下げると「いや、こちらこそ」と返された。まるでかっちゃんのお母さんみたいなこの先輩警察官は相澤さんと言うらしい。

爆豪が相変わらずなのを見て安心した名前は、2人の遣り取りを見て微笑んで言う。

「かっちゃんが相変わらずで安心したよ。仕事の邪魔しちゃ悪いし、私もう行くね」

そう名前が告げると爆豪は「送ってくわ。最近強姦あったの知ってんだろ」と言った。

その言葉を聞いた途端、急に道が暗く、冷気に満ちた様な気がして名前は「あはは」っと空笑いした。



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