僕のヒーローアカデミア
□正義のミカタ
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『可愛いは正義』と言うけれど、逆もまた然り。
「イケメンは正義だよね」
飲んでいたジュースが底を尽き、じゅぼっと音を立てる。
「かっちゃんのこと?」
カウンターの奥で書類にペンを走らせていた緑谷が聞く。青い制服に身を包んでいる彼は勤務の最中だ。
「さぁ。でも、ほんと……」
同じ幼馴染で同じ警察官なのにこの差って。流石にそれを口にすれば目の前の男も傷付くだろう、既のところで言葉を飲み込む。
「イケメンは正義だよね」
名前の声は、2人きりの交番に虚しく木霊した。
正義のミカタ
爆豪と緑谷とは幼い頃からずっと一緒で、所謂幼馴染だった。
小中高と同じように進学してきた私と彼等は、高校の卒業を機に道を違えた。2人は警察官に、私は地方公務員に。警察官だって地方公務員なわけだけど、只の事務職の私とはやはり働く世界が違うのであって、寂しいのに変わりはなかった。
「出久も警察官になるの⁉」
2人とも幼い頃から警察官に憧れていた。でもきっと夢を叶えるのは爆豪だけだろう、そう思っていた名前には衝撃のカミングアウトだった。
「まだ一次試験に合格しただけだから分からないけど、頑張るよ」
そう言ってはにかむ幼馴染に名前は「そっか。頑張ってね」としか言えなかった。彼の努力が実を結ぶ喜びより、自分と同じだと思っていた緑谷が爆豪と同じ所に行ってしまう焦りの方が優位に立った。
いつも一緒だったのに。その思いだけが自分の心を焦がす。私も警察官の試験受ければ良かったな、そう考える自分の弱さに嫌気がした。
高三の冬には3人其々に合格の通知が届き、皆が大学受験に備えて勉強に励む中、毎日の様に誰かが誰かの家で遊んでいた。爆豪と緑谷が2人きりで遊ぶことは無かったから、主に名前がどちらかの家に遊びに行っていただけだったが。
「ねぇかっちゃん、体力づくりとかしてる?」
爆豪の家でゲーム対戦中に名前が尋ねると
「ぁ?まぁ筋トレとか走り込みは続けてっけど、今は刑法とか勉強してっからな。時間にしたら少し減ったかもな」
とテレビの液晶を見つめて爆豪は答えた。
「刑法⁉そんなの勉強してんの?出久が刑法とかは警察学校で教えて貰えるって言ってたよ?」
爆豪の横顔に質問を投げかけると
「だからデクは甘ぇんだよ。一番になんには他より早くスタート切った方が優位だろうが。あと、お前負けな」
と返された。「お前負けな」の意味が分からずポカンとしていると、テレビから対戦終了のメロディが流れてくる。
「ぁ」
卑怯者、とは言えなかった。努力家の爆豪に言うには幾分気が引ける。それに余所見をした自分が悪いのだ。
「ねぇ、警察学校ってどれくらいの期間いるの?」
警察学校では携帯電話は使えないのだと緑谷から聞いた。今まで一緒だったのに、連絡も取れなくなるのは寂しい。
「10カ月。まぁその間ずっと外泊出来ねぇわけでもねぇし」
大人しく待ってろや、ゲームの対戦ぐらいしてやる。と意地悪く笑う彼は自分の勝利を確信している。
「……うん。でも10カ月のハンデを甘く見てると痛い目見るのはかっちゃんだよ」
待ってろと言われた嬉しさを隠すように売られた挑発を買う。爆豪との関係はいつも平行線。近いようで照れては離れる。