僕のヒーローアカデミア

□痴漢事件
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それは寮制になる前のこと
天喰は通学中の電車内で事件に巻き込まれていた


「痴漢です」

目の前の女性が声をあげる。
天喰は自分の目の前で起きた事件に少なからずショックを受けていた。

ヒーロー科に在籍する者が目の前の犯罪に気付けないなんて……

せめて犯人の確保ぐらい力にならねばと思った瞬間、天喰の腕が引っ張り上げられる。

「この人、私のお尻触りました」

「ぇ……」

周りの冷たい視線が突き刺さる。

俺が痴漢?他の人と間違えているのか?何か言わないとこのままじゃ……いや、痴漢の場合、無実の立証は難しい。あぁ、もう駄目だ……俺はーー

天喰が諦めかけた時、横の女性が声をあげる。

「待って。天喰君はやってない」

その声の主の方へ天喰が青白い顔を向けると、そこには雄英高校ヒーロー科の制服を着た女性がいた。

「天喰君の右手は吊革、左手は私と手を繋いでたんだから!」

次の駅で一緒に降りてもらえますか、駅員室で話をしましょう
天喰が言われるはずの台詞は、何故か隣の女子高生が女性に向けて発していたーー





女性は駅員室に連れられると真実を語った。昔痴漢にあった際に悲劇のヒロイン扱いをされて心地良かったこと、その後は痴漢をでっち上げ多くの男性から示談金をふんだくっていたことーー
女性が警察へ出頭することとなったため、疑いの晴れた天喰は駅員に何かあった時の連絡先だけ伝え、お役御免となった。

「あの、どうしてーー」

共に駅員室から出た女子高生に声を掛ける。彼女は苗字名前、天喰のクラスメイトだった。

「天喰君、横に私がいるの気付いてなかったでしょ。なんか痴漢の容疑者にされちゃってるし……笑っちゃうよね、天喰君が痴漢なんて。ありえないよ」

数歩先を歩く彼女は、苦笑いをしながら振り返る。

彼女は個性で人の思考を読み取れる。きっと女性の思考を読み取って俺の無実を確信したんだろう。でもーー

「どうして……手を繋いでたなんて嘘をーー」

苗字さんもヒーロー科の生徒だ、罪悪感無しに嘘をつける筈が無い。彼女の苦笑いがその証拠だった。

「……痴漢は無罪の立証が難しいんだよ?天喰君を助けるにはあの方法しか無かった。私だって、出来ることなら嘘はつきたくなかったよ」

先程より少し小さく見える俯いた名前に罪悪感が募る。

「ごめん、俺のせいで……」

「ううん、いいの。でも、その事でお願いがーー」


数日後ーー


「ねぇ、天喰君。苗字さんと手を繋いで登下校してるって噂になってるよー?ねぇ、なんでなんでー?」

「えっ!?それは本当かい、環!?」

「それは、その……」

波動ねじれの持ち込んだ話に、普段から高くない天喰のテンションが更に下がる。

「あっ噂をすれば!苗字さーん」

波動に捕まり手繋ぎ登下校について問われた名前は、チラリと天喰を見やると

「うん、手は繋いでるけど……付き合ってはないよ。あとは天喰君から聞いて?」

そう答えると、天喰に意味有りげに微笑んで立ち去った。

「だってー。ねぇねぇ、なんで付き合ってないのに毎日手を繋いで登下校してるの?ふっしぎー」

苗字さんは、俺が痴漢騒動に巻き込まれたことを皆に言いたくないのを分かっててあんな言い方をーー

波動の無邪気な問いに、天喰の頭痛は酷くなっていくようだった。







「やっぱヒーローが嘘をついたら駄目だと思うんだ。だからさ、これから実際に毎日手を繋いだら、私は嘘をついたことにならないよね?」

窮地から救ってくれた彼女の提案を、天喰は断ることが出来なかった。




あぁ、女性って怖いーー


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