獄都事変

□通学
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斬島の場合


「斬島、おはよ」

「苗字か、早いな」

珍しく早く家を出た苗字は、登校中に徒歩通学をする斬島を見つけた。

「私はたまたまね。斬島こそ、いつもこんなに早いの?」

「俺は剣道部の朝練で早く家を出たんだが……今日から道場が工事で使えないことをさっき思い出した」

真面目な顔をして言うものだから、笑ってはいけないと思いながらもつい吹き出してしまった。

「ふふ、結構ドジだよね」

斬島は少ししょんぼりして、うっかりしていた、と呟いた。

「ねぇ斬島、この間佐疫が言ってたんだけど」

あまり揶揄っては悪いと思い、苗字はこの前佐疫から聞いた生徒会の話を始める。

「来年の生徒会長さ、佐疫は斬島を推薦したいんだって」

「あぁ、その話なら佐疫から聞いている」

斬島は至って普通のことのように言葉を返す。

「俺に出来ることなら引き受けようかと思っているんだが」

斬島の真っ直ぐな瞳が静かに苗字を見据える。まるで飼主の判断を待つ子犬のような目に、心臓がドキリと音を立てる。

「ぁえっと、私は良いと思うよ。でも部活との両立は大変だよね!」

見つめられて心が高鳴ったことを悟られないよう、視線を外しながら答える。

「そうなんだ。うちの学校の生徒会はヤケに生徒会活動に力を入れているからな」

そう。これまで生徒会とは片手間で出来る役職だと思っていたのだが、苗字たちの通う高校は行事準備等に加え、ボランティア活動や国際交流活動など、為すべきことが山積していた。

「ね。斬島は剣道部のエースだから部活も続けたいしね」

斬島は1年生ながら国体で優勝をしてしまう剣道の猛者である。もしかしたら剣道部の監督が生徒会長になることを反対するかもしれない。監督からすれば折角の逸材、剣道に集中させたいだろう。

「いや、そのことなんだが……剣道はまた大学でも出来るから、剣道部は辞めようかと思っている。出来れば、その……今後の高校生活を苗字と共に生徒会で過ごせたらと思っているんだが」

「……は?」






【斬島、部活やめるってよ】


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