ヘタリア長編 その目で見つめて
□4 音楽の都
2ページ/4ページ
『今日はこれからどちらに向かわれるんです?』
椿が明るく問う。その声には今日これから見知りするであろう新しいものに対する期待がにじみ出ていた。まるで遊園地に向かう子供のように。
「まずはオーストリアだ。そこでオーストリアの化身と会ってもらいたいんだが、良いだろうか?」
『ええ、勿論です。オーストリアさをはどんな方なのでしょうか?』
「そうか、ありがとう。…で、オーストリアだがなかなか面倒くさいというか扱いにくいというか…そういうやつなんだ。」
「あ〜オーストリアさんは怒ると怖いよね〜。俺昔ものすごい勢いで踏まれたりガッツンガッツンされたりしたんだよね…。」
『そ…そんなことが…!?』
「あ、いや今はだいぶ落ち着いたんだ。一時期は俺と同居したりして気心も知れている。そんな警戒するような奴じゃないから安心してくれ。」
そうなのか。イタリア君の話を聞く限り怖そうな人だが、怒らせなければいいのか。
「オーストリアさんはね、お坊ちゃんなんだって。音楽と甘いものが大好きでね、手先が器用なんだ。ただ、怒るとちょっと怖いかなあ。」
「菓子を作ったり演奏したりするが用意と後始末は全て俺がやっているな。上手なのだが。あーあとあれだ、方向音痴。あれはひどいんだ…。
ん、性格…?気難しいというか神経質というか。マイペースなのは変わりないな。」
「私はあまり接したことはないのですが、おっとりしている印象ですね。職人気質で頑固?そんなイメージがありますかね。悪い人ではありません。」
話を聞く限り、芸術に関心が高いというのが分かった。椿はそういったものに疎く少し心配になったが、怖気づいていてはいけない、と自らを奮い立たせ、出会いに期待する。
その時、ドイツの携帯に着信が入った。
「あ、ドイツ―!電話!オーストリアさんから!」
「あー、すまないがイタリア、代わりに出てくれないか?」
「あいあいさーであります!隊長!」
そして電話に出るなり大声が聞こえた。
「もしもーしヴェストかー!?ケーセセセセ!!!あの腐れ坊ちゃんの携帯奪ってやったぜってあっおいやめ… ドイツですか!?今すぐこのお馬鹿さんを迎えに来なさい!」
「なっ… 兄さん!なんでいつもこう…」
ドイツは端末から聞こえてきた大声に驚き呆れ、イタリアは耳をつんざく爆音にキーンとしている。
「オ、オーストリアさん!?俺だよ、イタリアだよ!ドイツ今ね運転中だから俺が代わりに「え!?イタリアちゃんなのかよ元気かイタリアちゃーん!」ヴェ…。」
『な、なんなんですか…?』
唐突な展開に理解が及ばず隣の席の日本に助けを求めてみた。
「椿さん、プロイセン君ですよプロイセン君。」
『えっあのプロイセンさんですか!?』
二人にとってプロイセンという国は実に特別なものだった。欧米諸国に追いつこうともがいた明治時代。私たち日本が先輩と、師と仰いだ列強国がまさに彼だ。
椿は会ったことがないし、おそらく向こうも椿の存在は知らないのだろう。しかし日本さんからたくさん話を聞いていた。
彼はとても強いが、その陰には相当な努力があるのだと。私もそんな国になりたいと。
今の私たちを形作った彼が今、電話越しにいると思うとワクワクした。
「……ん?今、そっちに日本がいないか?今声が聞こえたぞ。」
「えっすごい、聞こえたのプロイセン!そうだよ〜ちょうど今みんなでオーストリアさん家に向かってるんだよ。聞いてない?」
「えっそうなのかよ坊ちゃん!?それを早く教えろよ!」
電話の奥で口論の声が聞こえる。
「あー…。うちの兄貴が本当にすまない、と伝えてくれ…。」
「わ、わかったよ…。」
「…日本と椿も。これで静かに過ごせなくなることは確定だ。全く申し訳がない。」
ドイツは頭が痛そうに謝罪する。
「いえいえ。プロイセンさんとはもうしばらく話をしていませんし…。久しぶりに昔の話でもしたいものですね。」
日本はにこにこ笑って返す。椿も同じだ。まだ見ぬ我らがセンセイ。一目でも見ておきたかった。
「あー、オーストリアさんがなるべく早く来なさい、って言ってたよー。」
電話が切れたようで、困り顔をしつつ伝言を伝えるイタリア。
「…わかった。では飛ばすとしよう。」
車は加速していった。噂に聞くアウトバーンを体験しているようで少しわくわくした。本物はこんなものではないのだろうが、異国の空気を早くも感じた椿はただ揺られているだけで楽しかった。