ヘタリア長編 その目で見つめて

□7 暗躍
1ページ/5ページ

朝、ホテルの一室で目覚めると、外は雨が降っていた。それほど強くはなく、サー…と少し音を立てて降るような綺麗なもので、なかなか雅味に満ちた目覚めだと椿は一人思った。
今日は特に予定が入っていない。おまけに菊さんは朝早くから仕事が入っていて完全別行動をすることになっていた。
ヨーロッパに来てから今までずっと一緒に行動してきた兄と今日は一度も顔を合わせていない。きっともう仕事中なのだろう。寂しいとかではないが、隣に人がいないというのはどこかおぼつかない。
布団の中少しボーっとしながら今日何をしようかスケジュールを立てているが、雨が降る中外出というのはあまり考えられない。今日一日部屋で大人しく過ごすのはなんだか一日を棒に振るようで嫌だ。
視線を外に向ければ街を濡らす雨。今日で4日目だが、雨が降ったのは初だ。清廉な雰囲気を醸し出す街並みを眺め、そのまま時が過ぎて行った。










遡って昨日、昼。オーストリア達と別れた後のプロイセンは家に1人でいた。



「私は、ドイツの話を聞いて…応援したいと、思うようになりました。」



先ほどオーストリアが言い放った言葉だ。よくもまぁそんなことが言えたものだと呆れを感じずにいられないプロイセンは苛立ちを隠そうとせず不機嫌な面持ちでいた。
見る限り椿も自分の死期を悟っている。だからこその旅行なのだろう。それは坊ちゃんもわかっているのだろうがそこを無視して無責任に応援するなどとほざく。なんて自分勝手だ。
…やはり、この危機感は亡国でないと持てないのか。自身の手のひらを見つめる。生まれた時から戦いばかりをしてきてごつごつ堅い掌には生傷。これは犬に噛まれた時のものですでに1か月が経過していた。
治癒能力は確実に衰えてきている。今や人間にも劣るのかもしれない。この言い知れぬ恐怖は尋常ではない。それを椿はずっと前から…心細いだろう。

そしてプロイセンは一つの決心をした。あいつらには任せておけねぇ。俺がどうにかするほかない。そのためなら…荒療治に出たっていい。

そう決めてからは早かった。現役時代鍛え上げた情報収集能力をフルに使い、今後の予定、宿泊先の部屋番号に至るまで手のひらの上に乗せることができた。
まさかこんなところで自身の経験が役に立つなど思いもしなかったが、今ばかりは感謝だ。

…待ってろよ椿、今、お前を救ってやるからな…

その夜プロイセンは夜中まで計画を練っていたという。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ