ヘタリア長編 その目で見つめて
□6 ハリネズミ国家とお嬢様国家
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ここはスイスの首都ベルン。髪にリボンをつけたかわいらしい女の子・リヒテンシュタインがご機嫌そうに買い物中だ。
「本日の晩御飯は何にいたしましょう…。」
大きなマーケットで品物を見て回っている。いつもは兄のスイスと一緒に買い物をするのだが、今日は「嫌な予感がする」と言って見回りに出てしまった。
こんなにもいい天気なのに嫌な予感…?とは思ったが、これも国民を思うが故。少々心配性の気がある兄をリヒテンは尊敬していた。
その時、セダーンという発砲音が聞こえてきた。お兄様だわ、と直感で感じたリヒテンは音のしたほうへ小走りに駆けて行った。
お兄様、無事でいてくださいお兄様、と胸いっぱいになりながら段々近づいて行く。すると兄の怒鳴り声も聞こえてきた。そこだわ、角を抜けた先ね。「お兄様っ!」と角を抜けるとそこには…
「な…リヒテン!?何故ここにいるのだ!!」 「ヴェエエエスイスやめてえええ銃向けないでえええええ」 「お、落ち着いてくれスイス。危害を加えるつもりはない。」
「ひいいい…スイスさんどうかお鎮まりください…!!」 『ええええ…このお方がスイスさんですか……』
非常にカオスな光景が広がっていた。
遡って数十分前。椿たち一行はウィーンからスイスへ移動してきた。車中ではイタリアのリュート演奏が披露されて終始和やかな雰囲気であった。
スイスはアルプス山脈が望める山岳国。車窓からもその雄大な景色が一望でき、椿はキラキラした目で感動を露わにしている。
「ドイツ・・・俺思っちゃったんだけどさぁ。」
イタリアが神妙な顔をしてドイツに話しかける。
「俺、ス、スイスに銃で撃たれちゃったりしないかなぁ!?」
『え!?』
その言葉には椿も仰天だ。銃で撃たれる心配をするとはどんな方なのか。椿のイメージではスイスとは大きなブランコに乗ってヤギと戯れクララが立つ国という印象しかなかった。しかしどうやら違ったようだ。
「いや、流石に撃たれる心配はないだろう。あくまでも観光なんだ、スイスもわかってくれるだろう。」
2人の会話からは何となく物騒な匂いがしてくる。すかさず兄に問う。
『スイスさんどんな方なんですか!?』
「・・・スイスさんは、非常に強いんですよ。で、その、厳しいといいますか。そんな感じです・・・」
心なしか兄が萎れているように見える。何かあったのだろうか。
「自分の意見を言え日本!!・・・だっけ?スイスはよく日本にこうやって叱りつけるからちょっと怖がっちゃってるんだよ。でも日本のことを思ってのことだから!悪いやつじゃないんだ〜。」
『銃で撃たれるというのは・・・?』
「警戒心が強すぎて怪しいやつを見たらすぐ撃ってくるんだよ。俺もう数え切れないもん!」
あははと明るく語るイタリアは何気にすごいことを言っている。しかし誰も突っ込まないのでこれが普通なのだと納得することにした。
「まもなく目的地周辺です・・・」
カーナビがそう伝える。見れば大きな川沿いに街が形成されていた。ここがスイスの首都ベルンである。
大きな川はアーレ川というらしく、濃い青色をしていて綺麗だ。
『すごい!まるで絵本やゲームの中のよう。』
「こんな街を舞台にしたアクションゲームなんてのはいかがでしょう?」
『あ、面白そうですね。キャラデザを工夫すればあるいは…』
思わぬところで熱く語り合う日本兄妹に残された二人は意外さを感じていた。
「ヴェ、こうしてみると本当に兄妹なんだね〜。でも椿ってたしか…。」
「義理の、妹だったな。2000年一緒にいるといろいろと似てくるところもあるのだろうな。本当の兄妹のように。」
仲のよさげな日本兄妹の様子にほっこりする二人。お昼を過ぎて街の活気が最高潮になってきたころ、4人は無事ベルン入りを果たした。
「……む、怪しい気配…」
椿達がベルンに入った瞬間、スイスは何かを感じ取り一気に警戒モードに入った。侵入者か?いやしかしセンサーは発動していない。ならばこの嫌な予感の正体は何なのか?
逡巡しているうち、聞きなれたあの声が聞こえてきた。
「あっそこのベッラ!!そうキミキミ!その服装とっても似合ってるよ〜!」
この軽薄でへらへらとした声。過去何度も何度も国境を越えようとしたあのヘタレ男…!!
認識するや否や鬼気迫る勢いで向かう。いた。なぜかドイツと日本と知らない少女が一緒だがそんなことは今どうでもいい。
今はとにかく目の前の侵入者をどうにかせねばならない。迷いなく、銃口を空に向けて一発、威嚇射撃。
「コラ―――――ッ!!!イタリア!!!」
「うっうたないでえええええええええええ!!!」
…そして現在に至るのだった。