ヘタリア長編 その目で見つめて

□5 予感と警告
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フォルクスガルテンから歩いて数分、高い塔のようなものが間近に迫ってきていた。とても高い。
オーストリアさんの宮殿からも見えていたこの塔の正体についてはずっと気になっていた。

「こちらはシュテファン大聖堂です。ウィーンを代表する観光名所の一つでもあり、この塔はヨーロッパで3番目に高いのです。」

『へえ…。大きなステンドグラスですね。』

「大変歴史のある教会で、モーツァルトはここで結婚式を挙げたのです。見どころは…中の大きなパイプオルガンでしょうか。」

音楽には疎い椿でも知っている、あのモーツァルトの名前がでてきていよいよすごい場所だと実感する。
見た目は古びているものの嫌な古さではない。心地の良い古さであり、心が落ち着く感じすらある。

「よかったら中を見てきてください。私はドイツに話があるのでここにいます。」

「? 俺に話があるのか?」

「そうです。他の皆さんはどうぞご自由に。」

きっと大切な話をするのだろう。「ご自由に」と言ってはいるが要するに「どこかへ行ってください」ということだ。

「…そうね。じゃあ行きましょうか。私何回か来たことがあるから案内くらいならできるわ。」

オーストリアさんの真意をくみ取ったハンガリーさんが私たちを連れ出そうとしている。

「本当ですか。ではイタリア君、椿さん、プロイセン君、ついていきましょう。」

「おう!このプロイセン様に任せろよー!」

「なんでアンタが仕切ってんのよ。」

そんな自然を装った不自然なやり取りをしながらオーストリア・ドイツ除く椿ら5人は大聖堂へと消えてゆく。
残った二人はとりあえず近くのベンチに腰を下ろした。

「で、何だ話とは。わざわざみんなを追い払ってまでする話なのか?」

ドイツは少し困惑した様子で聞いた。

「…さて、何から話したらよいのでしょうね…。」

オーストリアは悩んでいるようだ。ようやく頭の中で言葉がまとまったようで、俯き加減だった顔をまっすぐにドイツに向けて、言葉を発する。

「ドイツ…、単刀直入に申しますが、」

眼にはまだ迷いの色が見える。しかしそんな迷いを断ち切るがごとくしっかりとした口調でドイツに告げる。

「椿のことは、やめておきなさい。」

「な…、」

突然そんなことを言われたドイツは面食らう。なぜ今、この男から「やめろ」と言われなくてはならない?頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。

「いきなり何だ、どうしたんだ一体?」

「これ以上椿のことを好きでいるのはやめたほうがいい、と言っているのです。」

「…なぜだ?そう考える理由を話してくれ。」

オーストリアは苦虫をつぶしたような顔をして答えた。

「…国の恋愛など、不必要なのですよ。やめておきなさい。」

「相手は人間じゃない。れっきとした国だ。そうだろう?時間軸を狂わせたりしない。」

「そういう問題ではありません。私たちは恋愛をするために存在しているのではないですよ。」

「国としての仕事、使命はしっかり果たすことができる。…それは恋愛をしていても同じだ。」

両者の話は平行線のままだ。ドイツが"そのこと"に気付けないのも無理もない話だが、分かってくれないドイツにオーストリアはあからさまな苛立ちを見せた。
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