季節の物語

□白い季節のご奉仕
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"シウスの冬節"の冷たい風が吹く、赫月(あかつき)23日の午後。

フローラント退魔士国にある"退魔士協会"本部の会議室の一つ…その部屋には、大きな円卓が一つある。
左側の席から黒髪の少女、淡い青色の髪をした白衣の男、赤い髪をした長衣の男、焦げ茶色の髪の男、茶髪を肩の上で切りそろえた青年、右目に眼帯をした灰黒色の髪の男、銀髪の青年が座っていた。
この部屋にいる全員が腕章を付けていることから、協会の幹部たちのようだ。

「………」

全員が表情を曇らせて黙っているのだが…それもそのはずである。
つい先日、セネトがアルノタウム公国にある墓地をまた破壊したことで"オラトリオ教団"より使者がやって来ているのだから……

立ち上がった焦げ茶色の髪の男は、この場にいる全員に向け深く頭を下げた。

「あやつを止めるのが、一足遅かったせいで…申し訳ない」
「ネーメットさん…あなたの責任ではないですよ」

焦げ茶色の髪の男・ネーメットの言葉に、淡い青色の髪をした白衣の男は小さく首を横に振る。

「だいたい、止められるわけがないのですから…」
「たとえ、止めることができても…ネーメットが大怪我してると思うの」

白衣の男の隣に座っている黒髪の少女が、苦笑混じりに呟いた。

「そんなことになったら、今頃…キールが大喜びしてると思うの」
「人聞きの悪い…ネーメットさんが怪我をしてしまったら、主治医として仕事をすることになる。そうなれば、この反省会に出なくて済む…そうか。そういう意味では『大喜び』ですね…」

腕を組ながら言った白衣の男・キールは、何かを納得したように頷いている。
それを反対隣に座っている赤い髪をした長衣の男が、制するようにキールの肩に手を置いた。

「それもどうかと思うぞ?そんな話にされては、ネーメットも困るだろう…キール。それに、お前一人逃げようとするのは感心しないな…私なぞ、何度逃げたくなったことか……」
「キール、ディトラウト…お前さんら、ワシをネタに遊んでおるじゃろう…?」

呆れた表情を浮かべたネーメットは、自分の隣に座っている赤い髪をした長衣の男・ディトラウトとキールを見る。
ネーメットの言葉に、キールとディトラウトは苦笑混じりに首を横に振ると、ネーメットは「まったく…」とため息混じりに呟き椅子に座った。
そして、ちらりと反対隣の方を見たネーメットはディトラウトに話しかける。

「まぁ…許してやるわい、ディトラウト。その代わり、あやつの責任を半分持ってやったらどうじゃ?」
「ん?そう…だな」

ネーメットが見た方向へ視線を移したディトラウトは、小さく頷くと答えた。
二人が見ている方向が気になったのか…一人を除いた他のメンバーもそちらの方向を見ると、右側の方に座っている銀髪の青年が深く俯き、大きくため息をついているようだった。

銀髪の青年が、今にも倒れそうなほど落ち込んでいるのにはワケがある……
先日、セネトが受けた仕事はアルノタウム公国とフローラント退魔士国の国境沿いにある小さな廃村に夜な夜な現れるという"眠れぬ死者"を調査・討伐するという…比較的簡単なものであった。
村の中なのだから暴走しないだろうと、剣士であるネーメットがパートナーとして付いたのだ。
そして、"眠れぬ死者"に関する調査、呼び覚ました召喚者を追い詰めた…まではよかったのだが、追い詰めた場所が村はずれの墓地であった。
捕まることを拒んだ召喚者は、無差別に死者を呼び覚まし…それにキレたセネトが風と火の魔法で吹っ飛ばして、墓地を破壊したのだった。

「…首謀者は無傷で捕らえたのじゃが、あとの方が大変になったのぅ…」

おそらく、その現状を思い出したのだろう…ため息混じりに言ったネーメットは、自分に出されたお茶を飲みながら遠くを見つめた。
ネーメットの隣に座っているディトラウトは、頭をおさえながら大きくため息をつく。

(まったく…あのバカ弟子が!毎度毎度何かを起こしおって……だが、今回は反論の余地があるのが救いか)


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