追憶のステンドグラス

□1:帰りたい…いや、逃げ出したい
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「ぶふっ…」

埃っぽいマットレスに腰かけた僕は、舞い上がった埃に思わずむせてしまった。
…まぁ、そうなる事はわかっていた訳だけど――今、それどころではない。

僕の名は、リルハルト・フォス…ただの、しがない聖職者になるのかな。

そして、今いるこの場所…ここは、数百年前に無人となった教会なわけだけど――
はっきり言って、人間が来る場所じゃないだろう…と、誰もが思ってしまうくらい荒れ果てていた。

壁や床に穴が開いているわ…
砂埃がたっぷりだわ…
何か、いてはいけないものもいるわ…etc.

そりゃ…誰も近づかない上に、朽ちるがままに放置されるわけだ。

「…昔は、もっときれいだったと思うんですがねぇ」

思わず、そんな言葉を呟いてしまって…なんだか馬鹿らしくなり、深いため息をついてしまった。

僕に…此処へ行くよう命じた"我が君"に向け、ひっそりと文句を言いたくもなる。


――お前、あそこのアレを気に入っていただろう?ほら、あのステンドグラスのある…


開口一番のセリフでしたねぇ…"我が君"。
ちなみに、僕が気に入っていたステンドグラス…粉々になってましたよ?
…破片もなかったですよ?

だって、数百年経ってるんだから…残ってたとしても、木っ端微塵ですよねぇ。

(あー…文句しか思い浮かばない)

とりあえず掃除を、と考えたものの…大きくはない教会を一人で――

…何処から手をつけろ、と?

ふと、壁の崩れた所から見える満月を眺め…というか、窓が窓の役割をなしてないではないか。
えー…つまり、僕がまずやる事は建物の補修と補強の工事というわけですね。

ははは、一人でやれとか…僕は専門外ですよ。

親愛なる"我が君"…貴方は何をお考えですか?
何をどう考えて、僕一人で大丈夫だと思われたのかを小一時間詰めたい。
…いや、僕も深く考えるべきでしたね――"我が君"だけを責められないでしょう。

そもそも、何故…人間達がここを捨て置いたのか理解できない。
あれだけ信仰を大切にしていたというのに…人間というものは、やはり理解できません。

ただ、ひとつ人間達に言いたいのは…ここを使わないにしても、直しておいてほしかった。
そうしたら、僕の仕事も楽だっただろうと思わずにいられません。

大体、いてはいけないもの…がいるのは、教会を廃墟にしていたのが原因だと思われます。
心当たりのある人間は、すぐ引き取るか…回収するか…をしてほしいところですよ。
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