攻殻機動隊

□意外性と自己主張
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「どうだ、なんか吐いたか?」

無差別電脳ハック事件が公安の手により未遂で終わり、その犯人は警察署のとある一室で尋問を受けていた。

遅れて到着したバトーは軟禁されているテロリストをマジックミラー越しに見ている同僚に声をかける、しかし返ってきた返事は首を横に振るアクション。

「だんまりだ。押収されたPCにも証拠はギッチリ詰まってるっていうのにな…」

現場で花屋周辺の見張りをしていたトグサの話によると、その近くのビルの屋上に陣とって今まさに市民の電脳を支配しようといていた遠隔操作型のコンピューターを見つけたのだという。

「ほう…事件開始直前に花を買いに行ったってわけね、一体どういうつもりなんだか。」

手練れの刑事らしい人物が、話題の男に怒号を飛ばしているのが外から見て取れるが一向に口を開く様子はない。

事件の報告書を書かなくてはならないのだがこのままではいつになるやら…と二人は溜め息を吐きそうになった。

「バトー、トグサ。」

しかし軽快な足音と共に素子が現れれば一気に希望が湧いてくるものだ、何か掴んだのだろうと。

「何か分かったのか?」

「あぁ、あの男の持ち物をうちの鑑識が調べた。そしたらあの花屋の女の写真が山ほど出てきたんだ…」

その言葉で二人が素子の手元を見れば、なるほど山ほどある写真の中の一部を持ってきたらしく、それはどれも隠し撮りのようだ。

ここまでくれば大体の想像がつく。

バトーは同じ男として気持ち悪さに若干の胸焼けを感じ、喉の奥から低い音が出たがこれにてかたはつくだろう。

素子は引き気味の二人を一瞥もせずに尋問室のドアノブに手をかけ、おもむろに中へ入っていった。




「塚本誠司、この女に見覚えがあるだろう。」

シンプルな問いとともに先ほどの写真を机の上に叩きつければ、黙秘を決め込んでいた男の顔はみるみる青くなっていく。

「お前のデータの中から出てきた画像を印刷したものだ、共犯か?」

もちろん違う。

しかしこれも素子の作戦、本心を吐露させるためには動揺を煽り刺激することは効果的なのだ。

「違う!!!!あの人は関係ない!!!!」

「では何故あの花屋にはハッキングを仕掛けなかった、協力関係にあったからじゃないのか。」

決して声を張っているわけではない、しかし逃げ場はないと感じる威圧感。

塚本の態度はどこか呆けたものから打って変わり、体を緊張させ小刻みに震えながら顔にはじっとりと脂汗をかいている。

「彼女は…関係ないんだ…本当だ嘘じゃない。その写真は俺が撮った…」

「お前達は恋人同士か?」

(んな訳ねぇだろ…)

興奮している犯人との様子をドア越しに見ながら、素子の台詞についちょっかいを入れてしまうバトー。

「まさか俺なんか相手にされるわけないだろ…だから…テロを起こした。それだけが理由じゃないけど、色々あったんだ…親が死んだり、このゴミみたいな世の中に出なきゃいけなくなって…俺は本当は凄いやつなんだ、けど馬鹿な世界はそれに気付かない。」

だんだんヒートアップしてきたらしく塚本は座っていた椅子から立ち上がると鼻息をどんどん荒くしていった。

「本当に清らかな心を持ってるのは俺と名無しさんさんだけだ!!けど職のない俺を好きになってもらう方法なんて運命的な出来事がないと無理だ!!」

女はそういうのが好きだろ?といやらしい笑顔を向けられた素子はあまりの下らなさに大きな溜め息を吐く。

「つまり…あの花屋さんと付き合いたいが為に、アンタが暴徒と化した住人達から花屋さんを守ってあげてヒーローになる作戦だった…ってこと?」

こんな馬鹿なシナリオを言っている自分にも嫌気が差すが、どうやら当たりだったらしく塚本は頷きながら話を続けた。

「そうだ、そうすれば名無しさんさんは俺を好きになってくれるし世の中の人口を少しばかり減らせて一石二鳥だろ。」

稚拙でいて自己中心的な証言ばかりが飛び出してくる、怒鳴り散らしてやりたいところだが呆れ果ててその気も起きなかった。

「…何故被害者がキリストを名乗るようウイルスをプログラムした。」

「え…あぁ、名無しさんさんが無神論者だって何かの会話で言ってたから…皮肉のつもりで…別に深い意味なんてないよ。」

これ以上この男の精神論を聞いていても無駄だと悟った素子は最後の質問を男に投げかけたが、まるでそんな事は忘れていたというようなあっけらかんとした態度と答えが返ってきた。

もういい。と入ってきた扉の方へ踵を返し、元々担当していた刑事に引き継ぎを済ませる。

素子は痛むはずのない頭を押さえながら部屋を後にした。
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