コイル

□謎を解いてのお楽しみ
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10月21日。
鼻歌を歌いながら、江戸川乱歩は探偵社の扉を開いた。
同居している福沢に、探偵社は休みだが、そこで社員たちが用意をしていると言われたからである。
普段はこんなに早い時間に乱歩が出勤することなどそうそうない。冷やかしの意味も込めて、笑いながら扉を開けた乱歩は、直ぐに落胆の色を示した。
「そんなに落ち込まないどくれよ…w」
「だって………」
探偵社は人がいないだけで普段と何一つ変わらない様相だった。そんな寂しい場所で彼を出迎えたのは、専属医である与謝野晶子だった。
「社長がちょっとしたゲームでもすれば、準備している間の乱歩さんの気もまぎれるんじゃないかっていいだしてね」
「へぇ…、福沢さんが?」
「あぁ。色々と頑張ってたみたいだから、ちゃんと参加してやっておくれよ?」
「それは勿論だよ!!だけど、本当に面白いよね、それ?」
「やってみてからのお楽しみでいいじゃないか」
いつもと何一つ変わらない会話の応酬に、二人がいつもとはまた違う笑顔で互いを見つめる。
やる気に満ち溢れている乱歩に、与謝野が一枚のカードを差し出した。
「ゲームは簡単、謎を解いてその場所に向かって。その場所で謎を解いてを繰り返して、本当の会場に辿り着くって言うやつ」
「それ、簡単すぎるよ」
「因みに一問目を作ったのは、壁に頭をぶつけながら考えを絞り出したものの、最終的に纏まらず、血涙を流しながら太宰に助けを乞うた国木田作」
「なにそれすごく気になる」
カードの中身を見た乱歩は、目を開き、数秒逡巡する、構えになった。

 まみざしもうとうたひぜしろひのみううなみいうねしせひわひすうねしやみてうぱみすうゅしねひ

「中々いい謎じゃないか。国木田もやるようになったねw」
「それでも眼鏡さえ出してもらえないんじゃ、まだまだってことだと妾は思うけれど?」
「この程度まだまだだけど、入社したころに比べればましになったよ」
「本人には行ってやらない方がいいかもねぇ…」
「あいつはまだまだ成長するさ」
ほんの少し前に開けはなったばかりの扉に向き直り、乱歩は次の場所に行こうとして、足を止めた。
「ねぇ。早く案内してよ」
「妾は答えを教えてもらってないからね。どこに行きたいか、いってくれないかい?」
彼は常時細い目を、さらに細めて懐かしげにその問いに答えた。
「次の場所は――――――――。」
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