コイル

□仕事中は気をつけましょう
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「おい、資料はまだか」
「ちょっと待ってください!ええと…」
「よっぽど調教されたいみたいだな」
「チョウキョウホントニコワイデス」
「なら早くしろ」
綾辻探偵事務所のいつもの光景である。

今日も今日とて厳重なお守りをつけて生活をしている綾辻と護衛を担当している辻村は次なる事件の資料集めに奔走していた。
本来は事前資料など作成せずに即現場即解決が基本なのだが、今回の件は政府のお偉方が絡んでいるらしく辻村の上司に当たる坂口より資料の作成も仕事に組み込むよう事前に依頼されていたのだ。(因みに坂口は完徹3日目である)
「これで全部ですかね…。まとめをよろしくお願いします」
「コーヒー」
「いつもので大丈夫ですか?」
「あぁ」
大人しく筆をとった綾辻を見て、給湯室にコーヒーを淹れにいく彼女はなんとなく調教とやらが完了しているように思えるが、まぁ置いておこう。慣れた手つきでコーヒーを淹れ終え、ついでにお茶請けを取り出して同じ盆の上に並べた彼女が事務所に戻る。
「どうぞ」
「…一杯淹れるのに何分かかっているんだ」
「先生が言った通りの手順で淹れると時間がかかるんですよ!!」
「まぁいい。おいこっちに来い」
「なんなんですか、も」
言われた通りに近づいた辻村の襟を引いて、綾辻がグッと顔を寄せる。合わさった唇が、熱を持つ感覚に彼女が勢いよく体を離した。さすが、特務課のエージェントである。
「な、な、な…!!/////」
「ご褒美だ。ありがたく受け取っておけ」
「ここ事務所ですよ!!!」
「ほう。では事務所でなければいいわけだ」
「そういうことを言ってるわけでは…」
「今夜仕事が終わり次第、君の家にお邪魔しよう」
「だからっ…!!…………もうそれでいいです」
真っ赤な顔のままで自分の仕事にかかった辻村を綾辻が不敵な笑みを浮かべて見つめた。

その日の綾辻探偵事務所の仕事が早く終わったのは言うまでもない。

勿論、職務中のその態度に坂口安吾(完徹4日目)の雷が落ちたのも御察しの通りである。
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