コイル

□手前は
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夜、そういう事をする時、決まって太宰は俺に包帯を外させる。
何をするでもなく、黙ってそれを見ているだけで抵抗はしてこない。軽口も叩かない。重い言葉も愛の言葉も、絶対に言わない。
俺はその全身に巻かれた包帯を丁寧に取り払っていく。徐々に見えてくる肌は、病的に白く、どこでつけてくるのかわからない傷や痣、火傷、そしてそれが塞った痕だらけだ。
この傷はもう塞ったのか、これは新しくできたな、と無駄に傷の数を数えては、最後にまた増えたと少しばかりの後悔をする。
いつだったか、重い口を開いてたった一言だけ太宰が言った。
「この傷を中也以外に見せたことはないよ」
それは俺だけが特別だということか、青鯖の癖にと毒吐きながら、年甲斐もなく照れてしまった筈だ。
シュルリ、
最後の包帯を取り払えば、満足そうに微笑む太宰から目をそらさずに手にいっぱいの白を床に投げ捨てる。
伸ばされる手を拒まずに、ベッドに自ら倒れ込めば、乗りかかられて、抵抗する事を封じられる。
その傷を見せるという特別と、覆いかぶさるという2つの意味で縛るから、
「(手前はいつまでたっても青鯖なんだよ)」
そんな事をしなくとも、とっくに俺は手前のものなのに。
目の前の男の首を引き寄せ、荒々しい接吻をした。
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