コイル

□お買い物
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「芥川!!」
探偵社の近くにある商店街の待ち合わせスポット。
中島敦は目的の人物へ向かって声をあげた。
「遅いぞ人虎。」
「待たせたのは悪いけど時間通りだ。」
「僕は待つのが嫌いだ。」
「知るか!」
ポートマフィア幹部である芥川龍之介は今日も今日とて仮面のような表情と嫌味ったらしい口調を直そうともせず、僕に向き直った。
「でも、今日はありがとな」
「何がだ」
「せっかくの休みなのに買い物に付き合わせるなんて…」
社員寮に住み始めて早数ヶ月。
最初の頃に入り用のものは揃えたが生活を重ねると消耗したり、足りなくなったり、またでいいかが溜まりに溜まり、いよいよどうにもいかなくなった。
だから休日が被ったのにも関わらずそちらの買出しを優先せざるをおえないという話をすれば、付き添うという返答が返ってきたのが一昨日のことである。
「気にしなくともこの程度のこと構わない」
「でも、」
「僕は人虎と出かけたかった。それでは駄目なのか」
顔に熱が集まる。芥川はいつもそんな気障ったらしい言葉を平気で言うから、心臓が辛い。
「駄目じゃない…//」
「ならばいい。行くぞ。」
「あ、待てよおい!!」

商店街で買い物を済ませていく。早めに終わらせてそれこそ僕の部屋でのんびりするのもいいと思ったから。
自分で持つと言っても芥川は僕の荷物を平然と奪い、前を歩いていく。それに心が温かい気持ちになった。
出会いも普段も敵同士でも、こうして過ごせるのが単純に嬉しい。
最後に小さな雑貨屋に入った時に、僕はあるものに目を止めた。
「マグカップ…」
「どうした」
「いや、これすごいなぁ…って」
壁一面丸ごと使った陳列棚にアルファベットが一文字ずつ入ったマグカップが大量に並べられている。種類は二種類、黒地に白文字か白地に黒文字か。
イニシャルとして使うにも単純にデザインとしておくにもいいものだ。
Aのマグカップをそれぞれ手に取る。自分の買い物と一緒に会計を済ませて黒地の方を綺麗に包装してもらった。
「芥川、」
「なんだじ((「やる」」
「お揃い」
白地の方を見せれば、今日初めて芥川の表情が緩んだ。
「あり、がとう、敦//」
「!どういたしまして!///」
「…茶が飲みたくなったな。」
「?じゃあどっか店でも、」
「貴様の家でいいだろう。」
「………夕飯の買い物もして帰ろう」
「茶漬けはもううんざりだ」
「他のもの作れる!!」
日はそろそろ沈みそうで、たまにはこんな日もありだなって思いながら、人通りの少ない日でそっと影を重ねた。

後日、互いにマグカップを職場で使ったことにより太宰さんと樋口さんが大騒ぎ()するのはまた別の話。
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