導体

□たとえ遠回りになったところで
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かつて、我々と同じ名前の文豪と呼ばれる者たちが現世には存在したらしい。
妾たちの異能はそれを基にしたものが与えられているという。いつか見た本に書いてあったことだ。
そこにはこうも書いてあった。
”異能を持つ者たちの中には少なからず同じ運命をたどるものがいる”と……。

ヨコハマに雨が降っていた。
武装探偵社とポートマフィアが互いに歩幅を合わせて歩き始めたことがもうずいぶん前のことに感じる。
実際ずいぶんと前なのだ。
虎の新人が社に入社してもう十年近い時が経っている。
多くの命がこの地で散っていった。
妾の力では救い切れなかった。
その命の一つの前に、立っていた。

「探偵社の女医をうちに寄こしてくれ!!!」
重力使いがそう言って太宰に連絡をよこしてきた。あの時の声を今でも鮮明に思い出せる。どこか焦った、自分ではどうにもならない無力を医者への期待へと昇華しているそんな声。
重傷の患者の近親者から聞いた声と重なる。
ポートマフィアの爆弾魔、梶井基次郎が血を吐いて倒れたらしい。
久々に見た彼の顔は不健康的な色白さをさらに加速させ、もともとあまり肉付きの良くない体はとうに骨と皮だけになった姿。酸素マスクを繋がれ、蒲団の中で必死に呼吸だけを行っている体はだれが見ても手遅れだった。
「……与謝野くんもそう思うかね…。」
「…森医師。」
自分よりも何倍も優秀であろう、この巨大組織の長がいるにも関わらず、自分が呼ばれたと言う事は、手はつくしきっているのだろう。
必要とされているのは、妾の異能。
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