配線

□真っ白な空間
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真っ黒な空間だ。
上も下も右も左もわからない。自分が経っているのか座っているのか。ここがどこなのか、
≪妾≫が誰なのか。
真っ黒、という情報しか入ってこないことに五感が慣れ始めるくらいにはそこにいた。そこにただいるだけだった。
その空間の中で初めて音らしい音を拾う。
誰かの声のような、何かを叫ぶような声だと、耳と脳が理解した。
瞬間、
洪水に飲み込まれた。
光と音という今までの状況では多すぎる感覚が一気に入ってきて、脳がキャパオーバーを起こしただけだったが、それはたしかに洪水だった。
この空間は一気に情報で満たされた。
ヨコハマの街が燃えている。
肌をちりちりと焦がす熱さと、人々の逃げまとう声が妙に現実味を帯びていて、逆に現実だと言う事を呑み込めない。
まさに地獄だ。
そんな赤い、紅い、街を背景に積みあがる何かの山。あの空間と同じくらいに黒い、山。
肉の焦げるにおいがすぐ近くからした。
燃えていた。
何かが崩れる音がする。
いつか見たその光景が、
紅い、赤い、赤、黒、赤、黒、黒、
黒い、ゆがんでしまった眼鏡のフレーム。
折れた刀剣、焦げた手帳、燃え尽きそうな包帯、麦わら帽子、フード、スカーフ、長いベルト、ウサギのストラップ。
膝をついた。足に力が入らなくなった。
そっか、自分は立っていたのか、そんな今はどうでもいいことを考えた。
考えなければ、何も呑み込めない。
みつけた黒は、何よりも大事な、
救わなきゃ、救わなきゃ、救わな、救わ、救、
救う、救う、救う救う救う救う救う救う…………??????

「あ、あ…………」

絞りだした声は情けない音しか発さず、建物が崩れる音に飲み込まれていく。
すべては、すべてが飲み込まれていく。
蝶は舞わない。
何もかもがもう遅い。
頬を伝う涙がやけに冷たく感じる。
「涙を流す価値なんてない」
「お前には誰も救えない」
「役に立たない異能だ」
「仲間だって助けられない」
「医者だというのにただ見ているだけだ」
「お前が死ね」
「役立たず」
「人殺し」
「お前がすべて奪った」

「妾、は…」
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