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□遠く聞こえる祭囃子
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「でねー!!福沢さんったらいつまでも僕を子供扱いしてくるんだよ!」
「そんな約束を守ってる乱歩さんも乱歩さんなんじゃ…?」
「だからって9時は早すぎるよ!!せっかくのお祭りだよ?!せめて10時までいさせてほしいよね!」
「そういうもんなのかい?」
「そういうもんなの!!」
「そうかい…」
いつかやったようなやり取りを交わしながら妾たちは神社の参道を歩く。
周りの人々が周りの屋台に目移りしながら奥へ奥へと進んで行く中、流れを反対側へと2人で歩く。時刻は9時半。社長と乱歩さんの揉めた結果の妥協案だった。
10時までには帰って来ることと妾と一緒に行くこと。
「(社長はどんだけ妾のこと信用してるんだか…)」
今も心配でそわそわしている姿が脳裏に浮かぶ。
しかし隣の名探偵は気にした様子もなかった。灰色の浴衣に緑色の帯。頭に狐のお面をつけて手には水風船にスーパーボウル、射的で手に入れたよく分からないぬいぐるみ。完全に楽しんでいる。
「(妾の、浴衣なんて見てくれてないんだろうな)」
持っていないからとナオミに相談して持ってこられたのは白地に紺色の大輪の花があしらわれた、普段なら絶対に選ばないようなものだ。
「…やっぱもうちょっと遊びたい」
「えぇ?」
そんなことを言ったのは参道の階段を降りきって、さぁ帰ろう、と言ったところだった。突然足を止めてわがままを言う二十六歳にさすがにため息をこぼす。
「あのねェ乱歩さん。社長との約束を忘れたのかィ?」
「忘れるわけないじゃん、莫迦なの」
「今の乱歩さんだけには言われたくないよ」
「……与謝野さんだって、帰りたくないんじゃない?」
「なるほど、共犯にしようって魂胆かい。そう言うわけにはいかないy(((「可愛いよ」」
「今日の浴衣すっごい似合ってる。本当に可愛すぎてなんて伝えようか迷っちゃうくらい」
「は…?」
「だから“与謝野さんと“もう少し祭りを楽しみたいし、社長の言いつけ破ってこのままホテルとか行きたい」
「は?////」
体温が一気に上昇していくのがわかった。すでに遠い祭囃子がさらに遠くに聞こえて完全に耳に入らなくなる。彼の言葉を聞き逃したくない頭が周りの音を一切遮断してしまうくらいに、乱歩さんのことでいっぱいになった。
乱歩さんの似合ってる。
妾だってもっと一緒にいたい。
そんな言葉がのどの辺りで詰まって出てこなかった。
「僕らはもう大人なんだから、ね」
距離をぐっと縮められる。狐のお面を外して、道の方に向けて妾たちの顔を隠すように、持って来られる。
「子供扱い、されたくないでしょ?」
大人の情欲を孕んだ目で子供のように笑う彼の顔は夏の夜空を飾る大輪の花のような幻ではない。
祭りの後の寂しさを感じないような、不快感のない暖かさを感じながら、そっと目を閉じた。
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