配線

□最終下校時刻は結局守れませんでした
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「与謝野さーん!!いるんでしょー?」
「おやおや、生徒会長様がこんな処に来るなんて何があったんだィ?」
放課後の夕日が差し込む保健室に珍しい来客だった。この時間は部活に勤しむ生徒たちくらいしか訪れない。最終下校時刻が近づく今のような時間は保険委員会の統括をしている妾以外に人はいなかった。
「国木田に言われて書類を片付けてたんだけどその途中で指切った」
「乱歩さんが書類なんて珍しい」
「判子押すだけでいいって言われたけどあれは割と飽きる作業だ。二度とやらない!」
備え付けの丸椅子に乗ってくるくると回る乱歩さんの姿を見て笑えば、笑うの禁止!と返される。差し出された指を見れば赤い線から思っていたよりも多くの血が流れていた。
「痛いかイ?」
「当たり前でしょ」
「じゃあ少し染みるよ」
消毒を取り出してガーゼに染み込ませて彼の手を取ると顔が歪んだ。
「それ嫌い」
「仕方ないだろう…」
「そうだ!!与謝野さんが舐めてくれればいいんだよ!ほら唾つけときゃ治るってやつ!」
この人はいきなり何を言い出すのだろう。迷信とも言い切れないがそんな不衛生極まりないことをできるわけがない。何よりこの指に妾なんかが口をつけていいものか。
そんなことも知らず、いたずらっ子のように今か今かと待つ彼に少しだけ腹が立ってしまった。
そっと顔を近づけて赤を舐め取る。口の中に広がる鉄の味は不思議と不快にはならなかった。
「……なンで言った方が顔赤くしてるんだい…///」
「…与謝野さんだって顔真っ赤じゃん…////」
微妙な空気が流れる中、乾いたガーゼで傷口を綺麗に拭き取り、絆創膏を貼り付ける。終わったよ、と声をかけて、消毒液なんかを元の位置に戻そうと立ち上がれば乱歩さんの方へと腕を引かれて抱きとめられた。
「もー、ほんと与謝野さんかわいい…」
「乱歩さん…片付けを……」
「ちょっとだけ…」
頬に手を添えられ、乱歩さんの方を向かされる。気不味くて目をそらすと、逃がさないというふうに口付けられた。
「んっ…//」
「///……、」
いつのまにか校舎の中でさえ静かになっている。学校の、保健室でこんなことをしているという危険で甘美なコトに妾も乱歩さんも煽られていた。
最終下校時刻を告げるチャイムが鳴る。
名残惜しげに離れていく唇。
口の中にはまだ鉄の味が残っている。
「…校門のところで待ってるから、早く来てね!///」
「あぁ、すぐ行くよ」
絆創膏のついた手を振りながら出ていく彼の背中を見送って、片付けのために立ち上がる。

「ほんと……////」
予想外に大きな背中とか抱きしめられたとか接吻をしたとか傷を舐めたとか色んなことを思い出して再び真っ赤になった妾はしばらくの間立ち直れずに保健室から出るのはそれから5分後になってしまった。
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