配線

□また明日
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医務室を夕日の赤が照らす。
白い部屋が綺麗に染まっていく様をじっと眺めた。
応接用とは名ばかりの彼専用のソファに目を落とせば、外套を毛布がわりに眠る名探偵の姿。
「乱歩さん、帰ろう」
声をかければ、ゆっくりと翡翠の瞳が開かれる。
「与謝野さん…、終わったの?」
「アぁ、終わったよ」
「じゃあ帰ろう」
立ち上がる彼の胸元のネクタイを締めなおしてやると、彼の手が髪飾りに触れて向きを直される。
互いに苦笑しながら荷物をまとめた。
「お先〜」
「何かあったら連絡おくれよ」
残っている社員にそう言い残して、2人で夕焼けの道を歩く。もう向こうの方は暗く、夜が近づいてることを知らせて来ていた。
交わされる会話はくだらないことばかりで、明日にはきっと忘れているだろう。ふとした瞬間に思い出したら、少しだけ笑えてしまうようなそんな話ばかりだ。
分かれ道に近づくごとに、歩みは遅くなって、口数は少なくなって
「与謝野さん」
「乱歩さん」
「「また明日」」
明日も変わらない日が来ることを願いながら背を向ける。
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