配線

□ふわふわ
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探偵社のソファに座る妾は、正確には座っていた妾は、反転した世界と目の前にある男の顔に驚愕を隠しきれなかった。
白昼堂々社員の前で妾を押し倒しているのは稀代の名探偵、江戸川乱歩である。
「ら、んぽさん…?」
目の端に写る事務所内は阿鼻叫喚たる様だ。
敦は手に持っていた資料を落とし、国木田と太宰は喧嘩の体勢のまま固まり、谷崎兄妹は、まぁ言わなくてもいいだろう。とにかく混乱した頭はここに賢治と鏡花がいなくてよかった、というどうでも良くないことだが至極どうでもいいことしか考えられなくなっている。
「与謝野さん、熱あるよね。」
「へっ?」
「顔赤いしぼーっとしてるし、いつも通りなら僕が押し倒す前に気づいて避けてるでしょ」
聡い彼には何事もお見通しだったようだ。ゆっくりとだが社内の空気が動き始める。
すっと彼の体が引かれたかと思うとふわりと浮遊感。世間でいう姫抱きをされる。
「国木田、扉開けて」
「は、はいっ!!」
「あと与謝野さんは熱があるから休ませるって社長に」
「分かりました」
国木田に視線だけで謝れば、軽く首を振って表情が崩される。この分であればこの後の業務に支障はなさそうだ。
「与謝野さんは無茶しすぎ」
「乱歩さんは大胆だねェ」
「こっちは心配してるんだけど」
「ふふっ…ありがとう」
医務室までの道のりをふわふわとした気持ちで進んでいく。体に当たる乱歩さんの体温が気持ちよかった。熱で浮かされた頭は心地よい状況にゆっくりとまぶたを落としていく。
「乱歩さん…」
「いい子だから病人は寝てなさい」
「う、ん…」
「おやすみ」
遠くなる意識の中で、彼の優しい微笑みだけが視界に入った。
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