配線

□気持ちなんてわからない(完結)
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太宰は、そんな部屋の前に立ち、静かに翡翠と対峙していた。この目が、こんなに温度の無いものだとは太宰も初めて知り、好奇心をくすぐっている。
「太宰、そこどいて」
「すいません乱歩さん、私も順番待ち中でして。私が入った後でしたら幾らでも退くのですが」
「僕の与謝野さんに何の用があるんだよ」
「包帯の変えを頂きに。それよりも、【僕の】ですか」
「何が言いたい」
「貴方は、貴方の気持ちに自覚を持った方がいい。自覚がないせいで誰が傷つき、涙を流しているのか、分かっているんですか」
「うるさい。」
廊下の温度が下がる。物理的に下がったのではなく精神的に2人から放たれる殺気が錯覚させているだけだ。
「………もういい。」
「ここで引くから、傷つけるんですよ」
「お前のアドヴァイスを素直に聞こうとした僕が今回だけ馬鹿だった」
「それこそ余計です」
去っていく乱歩の背中を最大限の尊敬を込めて睨みつけた太宰は、静かな息遣いが聞こえる医務室を確認してソッと息を吐く。

















「(好きなんて、愛なんて分からない。くれた人はもう亡い。必要ないものは覚えてない。今くれる人は多く、だけどそれは自分に届く前に力尽きて堕ちるのだ。手を伸ばしても届かないものなんてどう手に入れればいい。分からない。なんで君は泣いていたの。なんで彼奴らは君を庇うの。なんで君は僕を愛するの。教えてよ。教えてくれなきゃわかんないよ。なんで僕にわからなくて皆んなが分かってるのかすらわからないんだ。この気持ちは何。分からない。役に立たない頭で役に立たない異能だ。なんでそこに僕がいないの?)」
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