配線

□気持ちなんてわからない
3ページ/3ページ

「じゃあ僕らは帰るから!」
「何かあったら連絡をおくれよ。直ぐに戻るからね」
暫くして乱歩は与謝野の左手を引きながら探偵社を後にした。
その腕に残っていた傷を思い出し、国木田は静かに息を吐く。太宰が珍しく机に向かっているが、何かを考えている風で仕事に手をつけない。
探偵社に未だ残っている子供達は先ほどの二人の様子を見て楽しげに騒いでいる。
ここであえて話をしよう。
先ほどの二人は、恋人同士である。
しかも社の全員の前でそのことを公言し、社長である福沢にも祝福された、恋人同士だ。
言い出したのも告白したのも乱歩からという話は聞けど、それ以降の情報は少ない。
「…ねぇ国木田くん」
「仕事をしろ」
「今日はもう敦くんたちも帰してもいいんじゃない」
「たしかに急を要する案件はないが…」
「乱歩さんと与謝野女史のことで話がある」
「………おい敦、谷崎、賢治!今日はもう帰って休んでいいぞ!」
国木田が残っていた3人に声をかけて、荷物を纏めるのを見届けて、探偵社から追い出す。
業務時間外のため事務員もいない。二人きりの社内に国木田が書類を作成するべくキーを叩く音のみが反響する。
「乱歩さんは、別に与謝野女史でなくてもいいのかもしれない」
「どういうことだ」
「そのまんま。乱歩さんは与謝野女子を愛してるのでも好きなわけでもなく、ただ一緒にいて楽だから恋愛という感情に無理やり当てはめてるだけなんだ」
「与謝野女史は気づいているのか」
「分からない」
「…気づいているだろう、と俺は思う」
「何かあったの」
「誰にも口外せんと言ったが、これでは話が別だからな。………今日、医務室に行ったら与謝野女史が泣きながら手首を自分で」
口に出した事実が重すぎて、国木田が口を閉ざし、太宰は目を大きく見開いたまま静止する。
すでにキーを叩く音すら反響しない社内を電灯ただは煌々と照らし続ける。
「社長に言うべきだと思う」
「言うべきじゃないんじゃないかな」
「これ以上与謝野女史に負担をかけるわけにはいかないだろう」
「乱歩さんが気づくべきだ」






続けたい
次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ