配線

□真っ白な空間
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無機質な部屋だった。
大量の機械と、ベッドと、ただ息をするだけの温度を失った人形。
その人形はとにかく美しかった。
散らばる黒髪。
陶器のように、病的なまでに白い肌。
閉じられた瞼の奥にある宝石が、どんな色であろうとも見た者を虜にするのだろう。
つながれた点滴が、痛々しい。
それが、美しさをさらに増幅させていた。

その部屋の中に一つだけ
一人だけ異質な存在がいた。
その人形の手を握り、涙を流す探偵帽の青年。
「与謝野さん…、与謝野さん……」
彼女は人形ではない。
人形なんかではない。
彼女は生きた人間だ。
もう、一年もの間、その美しい至極色の瞳に光を映してはいないが。
「早く、目を覚ましてよ…。」
毎日のように声に出されるその言葉は、今日も届かない。
「一緒にお菓子を食べたいんだ…、お出かけもいこうよ…、つまらないなんて言わない、君と一緒なら絶対楽しいでしょ…?楽しいんだ…、伝えられなかったものがいっぱいあるんだ…、あるんだよ…」

珍しく二人きりの依頼だった。
その依頼の帰りに、何者かに襲われた。
そこから、乱歩に記憶はない。
彼もまた、応戦したが、敵の何らかの攻撃により、意識は刈り取られ、大けがを負い、彼女の異能も間に合わないうちに気づけばここにいた。
約11ヵ月前の話である。

「今日、君のことを傷つけたやつらを、倒しに行くよ。」
「ごめんね、1年もかかっちゃった。」
「君に次こそ幸せが届けたいな。」

涙の痕を残したまま、少しうるんだ翡翠の瞳は、また違った美しさを持っている。
その奥に宿る覚悟と、優秀過ぎる頭が導き出した回答は、眠る彼女以外誰も知らない。
彼女が知っていることをまた彼は知らない。
彼が去った後の部屋の中。
空間の中。

無機質な音が、ただただ響き続けている。
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