dream


□アリとキリギリス
2ページ/5ページ







「じゃあ、アナタ達は人の畑の物を盗みに行こうと私を誘ったわけ??」





腕を組んで説教をするクレハの前には
正座をして下を向く、ダリルとメルルの姿があった。


彼らからこうなった経緯を聞いてみると
どうやら昔から父親がこの畑から二人に盗むよう指示をしていたようだ。

初めは二人も自分たちの敷地なんだと思い込んでいたようだが、
それが徐々に人の所有するものとわかってきたものの、
食べる物も他にないため
こうしてコッソリ入り込んでは食べ物を調達していたみたいだ。


子供たちに盗ませる親も悪いが
人の物とわかり、善悪の区別がつく年齢なのに、
それを続けている彼らも、もちろん悪い。


食べるものに困っていたのは可哀想だが…





「食べるものがなくて大変なのはわかるよ?
でも、勝手に盗んでいくのは違うよね?」




だったら畑の人に事情を話すなり、仕事を手伝うなり何かするべきだったんじゃないのかな?

とクレハが話すと、二人は小さな声で
「その通りです…」と落ち込みながら答えた。




「…もう、してしまったことは仕方ないよ」



私も一緒に行くから、さっきの男性に謝りに行こう?と誘えばダリルは大人しく頷いたが
メルルは反対した。




「謝ったところで、警察に突き出されて終わりだろ」


自分から務所にぶち込まれに行くほど馬鹿じゃねぇ

そんなの、ごめんだな。と頑なに拒否した。





「…メルル。この生活から抜け出したくないの?
こんなコソコソ盗みを働く生活で満足?」



一生このままで、父親みたいになりたいの?




クレハがそう問えば、メルルは舌打ちをしながらも少しの間考え、
弟と彼女の視線を感じながら「わかったよ…」と渋々納得した。



「ダリル、私がついてるから安心して?」


メルルの警察という言葉に
顔色が悪くなったダリルへ、手を差し出せば
彼はしっかりとその手を握り、立ち上がった。

メルルも大丈夫か?と弟を気遣い支える。



クレハは男性を探そうと辺りを見渡すも
広いトウモロコシ畑でその姿を見つけることは難しく、必死で走っていたため
どこを通って来たかもわからなくなってしまった。
仕方なく魔法を使うことにし、



《 ソノーラス 》



クレハが自身に魔法を掛けて声が響くようにすれば


『お仕事中に、すみません!』


と男性に話しかける。


急に響き渡る声に男性は驚き、そう遠くない場所からは「ヒャッっ!」となんとも可愛らしい悲鳴が聞こえた。

ダッセェと笑うメルルにクレハは黙りなさいと肘で小突く。




「なんだ!?
女…か??そこで何をしている!!」




『勝手にお邪魔してしまい申し訳ありません!お話ししたいことがございまして…』



『そちらに向かってもよろしいですか?』



そう尋ねてみれば早く顔を見せろ、と男性は近くに来るようにと急かす。

クレハは呪文を解除し
三人でガサガサととうもろこしを掻き分けて
近道をすればすぐに男性は見つかった。

どうやらあの後も男性は追ってきていたようだ。




「なんだ、子供が三人もいたのか!?
で、ここで一体何をしていたんだ??」



男性は三人の顔を順番に確認しながら
クレハが抱える大きなカゴを不思議そうに見つめる。

その視線を感じ取った彼女は
収穫したトウモロコシが入った大きなカゴごと男性にごめんなさい、と引き渡す。



「人の土地とは知らず、勝手に取ってしまいました。」



すみませんでした…と三人で頭を下げて謝る。
謝罪をされると思っていなかった男性は目を丸くして目の前の光景に驚いていた。



「…態々、返しに戻って来たのか?」



「はい、その…実は、他にもありまして…
それが今日だけの話ではないのです。」



クレハが彼らの今までの事情を話すとともに
それまで行ってきた行為も謝罪し、
二人にも合図して頭を下げさせる。


まるで私の学校にいる、森番のハグリット並みに立派な体格の男性はジッとこちらを見つめ彼らに手をゆっくり伸ばしてきた。

その迫力ある姿に、ダリルは青ざめた様子で身構えたが
男性は二人の頭をまるで犬を撫でるかのようにわしゃわしゃと撫で始めた。

殴られるのかと思っていた二人は
予想外の行動に呆気に取られる。




「よし、よし…よく正直に話してくれた。
盗みを働くのはもちろん良くない。
だが、勇気を出してこうして戻ってきてくれた…偉いぞ!」



男性はニコッと微笑むと
その表情を見た二人も顔を見合わせて身構えていた肩を撫でおろし安堵の表情をする。



「そうだ、お腹が空いているのなら家にあがっていきなさい」



「えっでも…
僕たち悪いことをしたのに…」


男性の誘いを
ダリルは立場上申し訳ないと断りを入れるが
気にするな!と男性は力いっぱいダリルの背中をバシバシと叩く。
その衝撃で彼は畑へ突っ込みそうになった。



「なあに、君たちのお蔭で少しトウモロコシの収穫の手間が省けた、その礼さ。」



そして男性は三人が返した大きなカゴを見せてハハッと笑う。



「それと実は、うちには息子がいるんだがね…
内気な性格なもんでいつも一人でいる。

君らが友達になってくれたら嬉しいのだが…

どうかな?」




男性の話を聞いてダリルは「僕でもいいのなら」と、コクリと頷き

クレハも続いて私も力になりたい、と名乗り出る。


メルルに至っては興味をなさそうにボーッとしていたのでクレハが

『失礼よ』

と耳打ちをしたらメルルは必要以上に驚いて顔を真っ赤にさせた。




「よし、そう来なくっちゃな!
良かったらすぐそこに車がある。」



家はここから少し先だ、乗っていくと良いと話す男性に
クレハとダリルは申し訳なさそうにお礼を言う。



「私達にお役に立てることがあれば何でも言ってくださいね」


その言葉を聞いた男性は、
「ありがとう、嬉しいよ」と笑顔で礼を言うと
近くにある農業用のトラックに案内してくれた。


男性の言葉に甘えて
クレハ達は顔を見合わせながら頷き
その後をついていくことにした。





「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったな?

俺の名前はランドン


息子はジェリーって名前なんだ。」





仲良くしてやってくれ、と頼むランドンに

クレハ達も各々自己紹介していき
最後にランドンと握手を交わしてトラックに乗り込んだ。




「そういえば、さっきのあの響く声、どうやったんだ?」




ランドンのその質問にクレハは危うく普通に答えてしまいそうになったが
ただ苦笑いをして答えず、気まずい車中をやり過ごした



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ