dream


□消えた記憶
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息を潜めて机の下に隠れていると
緊張したクレハの身体にはドクンドクンという鼓動の音と振動が鳴り響く。



まるでルシールと花火を見に行った時のようだ…


あの時は花火の音が響いていたが今はそれ以上に自分の鼓動が騒がしい。



二人が一歩ずつゆっくりと階段を降りていく音が
どんどん遠ざかっていく度に緊張感は増していく…










完全に足音が聞こえなくなってから、どれくらいが経っただろうか?




うまくご両親といってるかな?



そんな事を考えながら陽の光でライトアップされた宙に舞うホコリをクレハはただ、
ボーッと眺めている。



両親も自分の行いを悔いて、


『戻って来れて良かった!』


なんて、ダリルを抱きしめてくれてたらいいのにな…


幸せそうに微笑むダリルの顔を想像しながら
そんなことを考えていたが


彼女の期待は早くも、見事に裏切られることとなる。






「親に向かってなんだその口の利き方はァアァ!!!」





ガシャーン!と何かが割れる音が二階まで響き渡り
想像していたものと予想外の展開にクレハは身体をビクッとさせる。


その後、ダリルの「お兄ちゃん!!」という叫び声と
色んなものに衝突する音や、物が落ちる音が聞こえた。



恐らく、メルルと彼の父親がもみ合っているのだろう…



クレハはメルルの

『絶対お前は降りてくるな』

という言いつけを守るか守らないか悩み、ソワソワしていると
メルルの苦痛に耐えるような声と、ダリルの泣き叫ぶ声が聞こえ
いても立ってもいられず、クレハは部屋から飛び出した。



急いで階段を駆け下りて二人の声を頼りに部屋を探すと
奥のリビングに三つの影を見つけた。


その部屋に近づくにつれてひどく酒くさいニオイが漂ってくる。


酒瓶でも割れたのだろうか…?



リビングの中途半端に開けられたドアの隙間から中を覗いてみると
そこには、上半身の服を破られ
父親に革のベルトで背中に鞭打ちをされているメルルの姿があった。


どんな力でやればそんなことになるの?というくらい、メルルの背中は赤く腫れ上がり
見てるだけでも痛みを感じそうだった。

これは明らかに虐待、というかそれをも越えてもはや拷問だ…許せない…





「ちょっと、何してるのよ!」




やめなさい!!と武装解除の呪文で父親の手に握られていたベルトを弾き飛ばすと
その場にいた全員が部屋の入口に立っている彼女の姿を見てギョッとする。




「誰だッ!!!」


「…バカ、何で来たんだ……!!」



メルルがこっちに来るなという目で彼女を訴えるも
彼を視界に入れずクレハはジッと父親だけを睨みつける。



「彼から今すぐ離れなさい」




でないと、容赦しないわよ。と、父親に杖を向けると



「一体その変な棒で何ができるっていうんだ?」
 


彼は杖を奇妙な目で見ながらも、少し怯えた様子で一歩下がる。

私がたった今、魔法を使ったことには酔っ払いは気づかなかったようだ



しかし、クレハがメルルに近づこうとすれば、
父親は彼を無理やり自分の元へ引き寄せて盾にし


「やれるものならやってみろ!」


と壁に立て掛けていた猟銃を手に取り
銃口をこちらに向けてきた。


魔法界では決闘を行う場合
まずお互いに杖を取り出して構えるものだから
初めて銃口を向けられた私は一瞬だけ怯んでしまう。

本物の銃を見て足が少し震えるも、彼らの父親にバレないように更に強気で向かう。





「自分の子供を盾にするなんて…ふざけてるの?」




目の前にいる男は身長が180センチほどあるのかバカデカイ。

150あるかないかの小柄なクレハは
その男の迫力に負けないよう
杖を固く握りしめて父親を睨みあげる。




「ハッ!何言ってんだ?
こいつらを今まで育ててやったんだ、俺のモノだ。どうしようが自由だろ?」




黙って出ていくか、あとはそうだな…
大人しく謝罪して俺の言うことを聞くなら…
悪いようにはしない。

と酔っぱらいは私の身体を舐めまわすように見る。


そんな父親を呆れた目で見ながらため息を吐いていると
メルルが背中の痛みに耐えながらクレハに向かって強く叫んだ。



「いいからここから早く出て行ってくれ!
そして二度と戻ってくるな!」



彼の焦り様を見て父親はゲラゲラと下品に笑い
気持ち悪い笑顔でこちらに視線を送る。




「おいおい…なんだよメルルちゃんよぉ

まさか、お前の女だったのか?ん〜?」



水くせぇな、そういうことはちゃんと言えよ。

ここはひとつ
父親である俺が品定めしてやろう…



父親がメルルの頭を銃で軽く小突くとそのまま怪我をしている彼を突き飛ばし

クレハに銃口を向けながら薄気味悪い笑顔で徐々に距離を縮めてきた。




「離れなさい、このクソ野郎。

 これが最後の警告よ」



「ほぉ?やってみろよ子ウサギちゃん」




猟銃の先端でクレハのアゴを無理やり上にあげさせ
胸元を見てはニヤニヤ笑い、銃口で胸に刺激を与えて喜んでいる目の前の男を見て
クレハはついに限界がきた。




「…殺してやる」



先ほどと同じように武装解除の呪文で猟銃を弾き飛ばすと
今度は縄で縛り上げ身動きが取れないようにする。


酔っ払いの男は自分の身に何が起こったのか理解できずに目を見開いて必死に子供たちに助けを求めるも、
メルルはその顔に唾を吐いて悪態をついた。




「アンタに聞きたいことが一つある」


いいからこの縄を解け化け物!と騒ぐ男の胸ぐらを掴み、クレハはもう一度同じ言葉を繰り返して問いただす。




「この子たち…メルルとダリルの事を…
愛してるの??」




男は私の思い掛けない質問に呆気にとられて固まる。



どうしてこんな質問をしたかというと…


人の愛情には大きく別けて2種類ある。


まっすぐな愛と歪んだ愛…


子を育てる親は、その愛が歪み、時には行き過ぎた躾となることがある。

その場合に親はそれを虐待と理解できずに
愛だ、子供の為だ、と思い込んでいる。

もしこの男もそうなのだとすれば、
精神的な治療を行えば家族の絆は改善する可能性があるはずだからだ。


私はもちろん、それが可能な人であるならば
ダリルとメルルの為にも何か協力してあげたい…


男の子にとって、父親は、背中を見て育つ大事な存在でもある。
私の友人たちも苦しみながらもその問題をうまく乗り越えていた。




「さぁ、答えてちょうだい」



クレハが再び男の襟首を掴んで答えを急かすと
男は二人の子供の顔を見渡しながら
重い口を開き、ゆっくりと答えた。



「俺は子供なんてもんは元から好きじゃねえ」


ただ、店で物を盗ませるのには丁度いい存在だったな。



最後にヘヘッと笑い男はそう答えた。

クレハは怒りに震えながら杖を首元に強く押し付け
男に三つの選択肢を与えた。




「1 生き長らえるが、永遠の苦しみを味わう」

「2 炎の大蛇に呑まれ焼け死ぬ」

「3 清めの水で溺れて死ぬ」




どの道全部苦しむけど、どれがいい??


横からメルルの「全部やっちまえ!」というヤジが飛んできたが
一応私はそこまで鬼じゃない。




「ふざけるな!!!解放しろクソガキ!!!」

俺にこんなことしてただで済むと思うなよ!
お前ら全員まとめて殺してやる!!




と暴れ騒ぐ男に仕方なく私は許されざる呪文の一つを使うことにした。

アッサリこんな呪文を使ってやろうと思ってしまうあたり、私はやっぱりスリザリンの生徒なんだなぁ…なんて事を思ったりする。




「だったら永遠に苦しんでいればいいわ…」




《クルーシ…「やめて!!!!!」》





私が廃人にしてやろうと呪文を唱えかけたその時

横から小さな影が飛び出して私の杖を無理やり奪い取っていった。




「…ッダリル!!」



そこには自分でもやってしまった…という驚いた顔をしているダリルが立っていた。













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